燕市産業史料館では2日から25日まで渡辺一城写真展「鎚起銅器」を開いている。一枚の銅板を金づちでたたいて器を形成する燕の伝統技術、鎚起銅器。燕市はことし4月にその製造工程を紹介した図録「鎚起銅器」を発刊。燕市出身の写真家渡辺一城さん(37)= 東京都新宿区=のが撮影した同書の掲載写真をあらためて写真展に形を変えて展示している。
図録には裕に100枚を超す写真が収録されているが、展示しているのはほぼすべてがその収録作品であり、ことしで創業二百周年を迎えた鎚起銅器の老舗、玉川堂で撮影した。製作中の仕事場の風景や鎚起銅器の全体写真はもちろん肉眼では見えないクローズアップ、さらに鎚起銅器の製作に必要な道具を撮った写真もある。
全倍の銀塩プリントにアクリル板を張った写真作品をはじめ、ガラスのある展示スペースの作品は写真自体が立体物の作品であるかのようにあえて直立させて展示するなど、一般的な写真展とは一線を画する、明確な意図をもったシャープな展示方法が印象的だ。
なかでも鎚起銅器を作るのに欠くことのできない鳥口、サイヅチ、直刃、えぐり刃、コンパスなどの道具をそれぞれ黒い背景で撮影し、縦240×横320ミリの黒い額に納めた17枚の写真は、横にぴったりとくっつけてならべて展示し、1枚1枚の作品がさらに全体として迫ってくるような強い印象を受ける。
2014年にも同史料館で渡辺さんの写真展「豚」が開かれた。そのときに同史料館に展示している鎚起銅器を見て、小学生のときに玉川堂で鎚起銅器の体験をしたことを思いだした。「燕に伝統的でこんなにすばらしいものがあったと気付いた」。目からうろこだった。
昨年9月、玉川堂で撮影した。「自分の心に引っかかった美しい瞬間を撮ろうと思った」。思わぬ気づきもあった。「作品は時間をかけて細かい部分まで突き詰めて作るから価値があるとわかった」。自分の仕事と比較した。写真でもただデジタルカメラで撮るのではなく、フィルムで現像から焼き付けまで全部、自分でやることにも価値があると思うようになった。「写真もプロセスに価値があるということを考えさせられた。自分を見詰め直す、いいきっかけになった」と渡辺さんは言う。
初日に会場を訪れた玉川堂七代目の玉川基行さん(46)は「伝統工芸で道具にスポットライトを当てた写真展というのは聞いたことがない」と感心し、「道具を大事にすることも鎚起銅器の財産。道具に対する思いを新たにした」と渡辺さんの視点から学びを得ていた。
4日午後2時から作品解説会を開く。「秋分の日」の22日は「渡辺一城写真館」として渡辺さんが1カット3,000円で大型カメラのポラロイド(4×5インチ)で肖像写真を撮影する。午前の部が午前10時から正午まで、午後の部が午後1時から4時まで行う。
開館は午前9時から午後4時半まで、会期中の休館日は5日、12日、20日、23日。入館料はおとな300円、子ども100円で土、日曜と祝日は小中学生とその付き添いの保護者1人まで無料。問い合わせは同史料館(電話:TEL:0256-63-7666)へ。