東京都在住のフォトグラファー、阿部萌子さん(32)が既視感の源泉を求めて祖父のふるさと北九州で撮影した写真展「背中の景色」が、5日から30日まで三条ものづくり学校で開かれる。
埼玉県出身で10年に日本写真芸術専門学校を卒業。数多くの個展やグループ展で国内外で作品を発表し、15年に初めての写真集『背中の景色』を出版した。東京を拠点に作家活動を続け、「いつもの好きな場所で写真を撮る」をテーマに家族写真を中心とした出張写真屋としても活動する。
写真展では『背中の景色』の収録作品から約20点を展示。廃材を使った額に入れた作品や布にプリントした風になびく作品も用意する。「空間として楽しめる展示にしたい」と阿部さんは言う。
会期中の14日から30日まで三条市のアトリエ付き滞在施設「Craftsmen's Inn KAJI」に滞在する。その間、三条の街や三条で出会った人を撮って展示に加えていく。「それをきっかけに来場者とコミュニケーションがとれるし、何度、足を運んでも楽しめる展示になる。三条に暮らしながらわたしが街になじんでいく姿が写真にあらわれるのでは」と考える。
『背中の景色』は神奈川県横浜市に住む祖父の出身地、福岡県北九州市を撮り歩きした写真を一冊にまとめた。初めて行った祖父の故郷、北九州市で、たびたび既視感を覚えることがあった。行き着いたのが北九州市だった。「知らず知らずのうちにおじいちゃんの懐かしさを受け継いでいる。目には見えないけど感覚が受け継がれているのではと思うようになった」。阿部さんの背中に広がる会ったことのない家族の顔が浮かんできた。
「懐かしさは今のここに、かつてのかなたが二重写しになったときに起こる感情。日本各地にそういった所があり、新潟に背中の景色を探しに来ているんじゃないか、ふるさとに新しい発見があるのではと感じる」。
阿部さんが三条で写真展を開くことになったきっかけは三条市の服飾作家、イカラシチエ子さん(34)との出会いから。東京で活躍していたイカラシさんは新潟へ戻る直前の13年9月、東京・四ツ谷の写真を中心としたギャラリーでインスタレーションを行った。
同じギャラリーで阿部さんは前の年に写真展「背中の景色」を開いたこともあってイカラシさんの展示を見学した。展示されていたドレスをひと目見て「これが着たい」とほれ込み、12月の自身の結婚式でその願いを実現させた。
その後、互いに行き来する交流が続き、新潟との縁が深まり、イカラシさんも入居する三条ものづくり学校での写真展が決まった。それにあわせてこの8日から30日まで写真集を中心にした書店、新潟市のBOOKS f3で阿部さんが「夫へのラブレター」という写真展「光にふれる」を開くことも決まった。
イカラシさんは阿部さんについて「妹のような友だち。自分に重なり、作家としても素敵だし、どこか不思議な存在」で、「イカラシがきっかけで写真展をやる人がどんな人か見てほしい」と言い、「彼女を通して自分も掘り下げたい」と阿部さんからの刺激にも期待している。
関連イベントとして16日午後7時から燕市吉田、ツバメコーヒーで阿部さんとイカラシさんのふたりによるお話会。参加はコーヒー、おやつ付きで1,500円。申し込みはメール「info@toikarashi.com」へ。