毎年11月5日から8日までの4日間、真宗大谷派三条別院(森田成美輪番・三条市本町2)で行われる報恩講は「お取越」とも呼ばれる三条の風物詩でもあるが年々、にぎわいが減るばかり。なんとか歯止めにつながればと、毎年11月6日の夜限定で別院本堂を開放して演劇公演を行う「シアターサンジョーゴボー」をことしからスタートする。
記念すべき第1回公演となることしは「怪異譚海坊主」。長岡市を拠点に活動する「劇団☆ASK」による公演で、 新潟市南区の人気劇団「劇団ハンニャーズ」の劇作家、“中嶋かねまさ”さんが舞台脚本、演劇会の異端児とも言われる劇団☆ASKの“かねことしやす”さんが演出を担当。この2人が歴史ある三条別院の北陸最大級の本堂で初めてコラボレーションする。
あらすじはこうだ。この世に人ならざる者在り。この世のあらゆる物には魂が宿り 百年を経ると摩訶不思議な力を得て人を惑わすことがある。これ即ち妖−アヤカシ−。それに人の情念、強い恨みや苦しみなどの「感情」が宿らばこれを−モノノ怪−と呼ぶ。モノノ怪の形と真と理を明らかにし、人の業を照らし出せ。
江戸時代ころの設定で舞台は船の上。妖怪退治もできる力をもつ僧りょが、どろどろした感情も抱えている。その僧りょの内面に焦点を当て、妖怪の海坊主の正体を明らかにしていく。僧りょが過去に犯した罪に人間の業をテーマに仏教、浄土真宗の教えを説教くさくなく演劇で表現する。
注目は、キャストとして劇団☆ASKの9人に加え、真宗大谷派三条教区の僧籍をもつ13人も出演することだ。身体的な表現は歩いて移動するくらいで、僧りょの内面の声を話したり、「正信偈」を唱えたりする。
10月26日は本堂で僧りょをまじえた3回目の練習を行った。台本を見ながらの練習だったが、あえてほかの人と言葉が重なるように話すタイミングや感情を込めた話し方の表現が難しく、かねことしやすさんの指導で練習を重ねた。「えらいこっちゃ」、「大変だけど半分、楽しい」と話す僧りょもいた。
新潟市南区西笠巻、福圓寺の福田拓哉さん(26)は主催の三条別院報恩講実行委員会から直接、エキストラをやらないかと声をかけられて参加した。父が福圓寺の住職。長岡市内の会社に勤務し、真宗学院で教師資格を取得するため、勉強中。仕事を終わって練習に参加した。
演劇の経験はまったくなく「こんなことになるとは」と苦笑い。当初は読経して少しせりふがあるくらいと聞き、軽い気持ちで参加した。「思った以上に本格的で驚いている。練習なのにあがって、緊張感があるけど、みんな和気あいあいとやってる」。
台本は自分が出演するところだけでなく、一通り読んだ。仏教的なストーリーだけに「外からもしっかりと見てみたいし、その一部に出られるのはとてもうれしい」と、喜びも感じている。
報恩講は、浄土真宗の開祖、親鸞の報恩のため、親鸞の忌日を最終日として7昼夜に渡って行う法会。“お取越”の名で親しまれる。
5月の三条祭りと並ぶ三条の二大行事といわれていたが、大名行列で今も何万人もの人出を集める三条祭りと対照的に、お取越は急速に衰退。三条別院の行事に参加する県外の団体参拝などははそれほど減っていないが、三条別院参道の本寺小路周辺の露店が昔と比べると見る影もない。
すでに露店がピーク時よりかなり減っていた24年前の1992年(平成4)のお取越でも雑貨90、植木35の計125の出店があった。それが2013年には植木の出店がなくなり、昨年の出店はわずか37店にまで減った。
人出が減ると出店が減る、出店が減ると人出が減ると悪循環に陥っている。このままでは数年後にも出店がなくなるということもあながち悪い冗談とは言い切れない。何とか地元の人たちがお取越に来て本堂に入るきっかけになればと、演劇の上演を企画した。
本山でも行っていない取り組みで、三条別院は近年、僧りょとの合コン“坊コン”を行うなど、本山に先駆けて実験場のように次々と斬新な取り組みを行っている。毎年「シアターサンジョーゴボー」を続けることで新たなお取越のにぎわいを取り戻すことに期待しており、来場を呼びかけている。