東京で音楽業界で活躍した大井秀一さんが11日、亡くなっているのがわかった。58歳だった。かつて三条市で大井楽器店を経営したことで知られ、東京で音楽制作会社を経営。「shu(シュウ)」と称してシンガーソングライターで作詞家、ナレーターとマルチな才能を発揮した。
11日、知り合いが仕事で大井さんに連絡しようとしたが携帯電話に出なかったため、不審に思って関係者が渋谷区にある大井さんの会社の事務所を訪ねたところ、大井さんが亡くなっているのを見つけた。
大井さんは家業の三条市・大楽器店を継ぎ、ダイナゴンパワー、初代カンパリなど三条市のロックシーンの黎明期を牽引するだけにとどまらず、全国的に音楽コンテストで上位入賞も数知れず、コンテスト荒らしといわれるほど群を抜く実力だった。
2015年にはブランドソング制作などを手掛ける合同会社SHUZを設立。昨年10月23日には大井さんの発案で伝説的ロックコンサート「ROCK in 三条」を31年ぶりに復活、成功させた。ふるさと三条でその存在感を知らしめた。
三条市で侍ラーメンを経営する山崎剛さん(57)は、大井さんの妹の夫で、義弟。「まだ全然、信じられない」と言いながらも突きつけられた現実に目を潤ませる。12日は訃報を聞きつけて確認しようと次々と友人が侍ラーメンに来店し、涙を流す人も多かった。
山崎さんは高校を卒業してすぐに大井楽器でアルバイトから働き始めた。バンド活動では、ダイナゴンパワーでは大井さんがキーボード、山崎さんがギターを担当。昨年の「ROCK in 三条」で何十年ぶりに一緒にステージで共演した。
昨年の「ROCK in 三条」も「あいつがいたからあれだけの連中が集まった。秀(大井さん)がいるんだったらと、先輩も含めて集まってくれた。そういう意味で、三条の音楽の地盤を人とともにつくってくれた。みんなその背中を見てやってきた」と功績を話す。
15日には東京で家族葬のような形で行われる葬儀に参列する。「後日、三条でお別れ会のようなものをやることになると思う」と話した。
音楽事務所「オトノハコ」社長の加茂市の笠原厚浩さん(56)は、1990年代から大井さんとアコースティックギターデュオ「slow」を結成していた。
学生時代から大井楽器の客として大井さんと知り会い、大井さんがキーボード、笠原さんがギターを担当するバンド「クックロビン」を結成したこともある。
笠原さんが2010年秋にオトノハコを設立後、所属するフルート奏者の本宮宏美さんのコンサートにゲスト出演することもあり、音楽を接点としたつながりを深めていた。「ROCK in 三条」ではダイナゴンパワーでサポートギタリストとして共演。昨年11月に新潟市のライブハウスで、slowとして共演したのが大井さんとの最後の別れになった。
「slowは“どっちかがくたばるまでやる”がコンセプトだと冗談半分で言ってたんだけど、まさかこんなに早くその日が来るとは」と言葉を失う。
95年にslowでアルバムをリリースしている。最近も大井さんから「いつ何があるかわからないから早くやりたい」と、slowのニューアルバムをリリースしたいと言う誘いがあった。
笠原さんは互いに忙しいこともあり、今はそれぞれの仕事に注力して、時間に余裕ができたらと答えていたが、「今となっては後悔している」とも。大井さんについては「兄貴みたいな人だった」と振り返り、「追悼するようなことがあるとすれば万難を排してやりたい」と話している。
「ROCK in 三条」は、関係者の間では2年後に開催したいという声が出ていたが、今度はその核となった大井さんを失っての開催となる。