真っ赤なさくらんぼが鈴なりの樹を見上げるのは初めてだ。
さくらんぼの樹の色は桜と同じで、茶より黒が強い。桜の木は、冬の間に春の花に備えて樹液にピンクの色素を蓄えると聞いたことがある。しかし、桜の花は白に近く、さくらの実は限りなく赤だ。ピンクの色素は、花ではなく、実を作るためではないだろうか。
艶々と輝き、パンッとはち切れんばかりのさくらんぼは、生命力の塊のように見える。
さくらんぼの上には、大きく丈夫な葉が、幾千にも重なり日傘のようである。実を色濃くするには、葉は邪魔ではないかと思うが、空中で鳥が狙っているのだ。鳥が運ぶ種と、熟して土に落ちる種。このバランスは自然が管理している。生育に適した安定した環境と、一か八かの新しい環境への挑戦。
子を上京させる親のように、さくらんぼの樹も悩むのだろうか。
律子