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新潟県の中央にあって金属加工を中心とした地場産業の集積地で知られる燕市と三条市では、ものづくりの現場を公開、体感してもらうオープンファクトリーが近年、次々と誕生している。
そうしたなか包丁メーカーの藤次郎株式会社(藤田進社長・燕市物流センター1-13)は、2017年7月21日に燕市吉田東栄町、藤次郎ナイフギャラリーに隣接してオープンファクトリーをグランドオープン。これまでの地元のオープンファクトリーとは一線を画すテーマパークのような充実した施設はオープンから1カ月余りで約1,500 人を集客する人気を呼んでいる。
“弥彦へ向かう絶好のロケーションに建つ”
燕市から弥彦村へ向かって国道116号を横切り、通称「弥彦街道」(県道29号吉田弥彦線)に入ってすぐ右手の道路に面して藤次郎ナイフギャラリーが立つ。周辺の工場や住宅、田んぼのなかではひときわおしゃれなアイボリーの建物が目を引く。燕三条駅、三条燕インターを降りて弥彦へ向かう道中にあり、弥彦観光の道すがらにオープンファクトリーで産業観光も楽しめる絶好のロケーションだ。
藤次郎ナイフギャラリーは、オープンファクトリーのちょうど2年前の同じ日、7月21日にオープンした。製品の展示販売を行っており、取り扱いアイテムは約1,300。自社製品だけでも約1000を数える。最も高額な商品は、柄に村上堆朱(ついしゅ)を施した包丁で、16万円。ガラスケースのなかに美しく展示されている。
“オープンファクトリーは新設のエントランスから”
オープンファクトリーは大きく分けて4棟。見学順路順にエントランス、藤次郎ナイフファクトリー、藤次郎ナイフアトリエ、既存の藤次郎ナイフギャラリーから成る。エントランスは新設し、藤次郎ナイフファクトリーは廃業した洋食器メーカー、諸橋工業株式会社の工場を買い取って改修。藤次郎ナイフアトリエは既存の工場を改修した。
順路に沿って見学してみる。前面がガラス張りの明るいエントランスに入ると、工場での作業風景を撮影したムービーと写真が出迎える。1953年に藤寅農機として設立、55年から包丁の製造の手掛け、64年に藤寅工業株式会社を設立。68年に吉田工場を新設、92年に燕市物流センター1の現本社で営業を開始し、2015年に藤次郎株式会社と改称した。その60年余りの歩みを当時の製品の展示とともに振り返るコーナーが設置されている。
“抜き刃物をつくる藤次郎ナイフファクトリー”
続いて藤次郎ナイフファクトリーへ。包丁の製法は、大きく分けて古来からの鋼を打って仕上げる「打ち刃物」、ヨーロッパなどで主流のステンレスを鍛造して型で抜く「型鍛造刃物」、利器材を型で抜き仕上げる「抜き刃物」の3種類ある。藤次郎ナイフファクトリーでは「抜き刃物」の製造を見学できる。
抜き刃物の製造は20から30の工程がある。そのうち見学できるのは溶接から、洗浄までの工程。口元研磨、刀身研磨、目通しといった作業を見学できる。工場には幅2メートルほどの通路が設けられている。作業場とは手すりで仕切られているだけなので、働いている人と同じ環境で音や光、臭いや震動をダイレクトに五感で受け止める。奥には中二階があり、抜き刃物の製造工程を12段階に分けて展示する。
諸橋工業が使っていた年代物の機械、フレキションプレス2台がそのまま設置してある。人が重量挙げをしているようにも見えるユニークな造形のプレス機で、オブジェのようでもあり、重厚な存在感を放っている。
“打ち刃物をつくる藤次郎ナイフアトリエ”
続いて藤次郎ナイフアトリエの見学へ。その前にエントランス隣りの鍛造の作業場を見学する。藤次郎ナイフアトリエでは「打ち刃物」を製造する40から50もの工程の一部を除き、ほとんどを見学できる。
その最初の工程が鍛造。炉で真っ赤に熱した材料をスプリングハンマーでたたいてねらった通りの形にしていく。熟練の技を必要とする作業だ。炉は1000度以上になるのでさすがに暑く、材料をたたくたびに火花が飛び散るダイナミックな技を目の当たりにできる。
ナイフファクトリーもナイフアトリエと同様に通路がある。ナイフファクトリーは量産品の製造だが、ナイフアトリエでは鍛造の特注品、輸出用の高級品、セミカスタムオーダー品などを製造。成形・レーザー、作切り、研削、焼き入れ、ブラスト加工、仕上げ研ぎといった作業を見学できる。
柄の取り付けは、抜き刃物は機械化されているが、手作りの打ち刃物は刀身の形が微妙に異なるので機械化できない。刀身にあわせて柄を微妙に調整する必要があり、手がかかる作業であることが理解できる。オープンファクトリーを見学したら、ナイフギャラリーに戻る。
“エアコンを設置してマスク不要のクリーンな環境”
ブルーカラーの職場は、きつい、汚い、危険な「3K職場」と呼ばれた時代があるが、このオープンファクトリーは隔世の感がある。掃除が行き届いて整理された作業場はクリーンで明るい。強力なエアコンや集塵機(しゅうじんき)を設置しているので、働いている人はもちろん見学者も快適。マスクをつける必要もない。
社員は見学者を見かけるとあいさつしてくれ、手が空いていれば見学者の質問にも応えてくれる。作業をしやすいように、いすをキャスター付きの板に載せたり、手元が安定するようにひじを置く道具を手作りしたり、社員が自分で考えて工夫を凝らしているのもおもしろい。
“事前予約すればガイド付きで約40分の見学”
オープンファクトリーは自由に見学できるが、事前に予約すれば案内、説明してくれる。担当はナイフギャラリー責任者でネット事業部システム管理責任者の小川眞登さん(45)。見学の所要時間は約40分。藤次郎の工場全体から見ればオープンファクトリーは一部でしかないが、ものづくりの魅力や製品に対するこだわり、職人たちの技や思いなどを十分に感じることができる。
作業スペースと通路を窓で仕切らなかったことについて小川さんは「音もしない、においもしないでは町工場の工場見学とはちょっと違う」と説明する。職人が見学者に声をかけられることもテーマにした。「お客さんから声をかけられれば、手を止めて望みの作業をして見せる」、「なるべく興味のある人には作業を見せてあげたい」。見せてあげるという意識が芽生え、お客さんに対するあいさつも根づいたと小川さんは変化を話す。
“子ども連れてオープンファクトリーを見学する社員も”
職場環境を改善する5S活動で工場がきれいになり、見てもらう前提で整理整頓が進んだ。毎年秋に行われている燕三条地域の名だたる工場を開放する「燕三条 工場の祭典」に毎年参加しているが、現場から工場の祭典のアイデアが出るようになった。オープンファクトリーに働いている人が平日に休みをとって子どもを連れて訪れ、子どもに職場を見せることもあった。
本来はあまり見せたくない工場の内部を公開する意義について小川さんは「値段が高い製品がなぜ高いのかは製造しているところを見てもらわないとわからない」。消費者に限らず問屋にも言えることで、「問屋さんも製造の現場を知らない人が多く、製品に納得して扱ってほしい」と願っている。
小川さんは東京育ち。オープンファクトリーの産業観光としての可能性にも注目している。「昔は東京の銀座で買い物をするのがステータスだったかもしれないが、今はものが生まれている地方へ行って地方で買う方が魅力的。地元の方が強みがあると実感している」。
今後もオープンファクトリーは改善を図り、五寸釘でペーパーナイフを作るワークショップや包丁の研ぎ直しのセミナーの開催などを検討中だ。
藤次郎ナイフギャラリー
住所/〒959-0232 新潟県燕市吉田東栄町9-5
電話/0256-93-4195
営業/
【藤次郎ナイフギャラリー】10−18時、日曜と祝日は休み
【オープンファクトリー】10時−17時、燕三条カレンダーの営業日に準じる
※ナイフアトリエのみ日曜と祝日は休み