ニッパータイプの高級つめ切りで知られる株式会社諏訪田製作所(小林知行代表取締役・三条市高安寺)は、ユーザーの要望に応えて8月初めから盆栽用のはさみのうち「喰切(くいきり)」と呼ばれるタイプのオンラインショップでの取り扱いを開始し、自社販売に乗り出した。
盆栽ばさみには大別して、やっとこのように刃ではさんで切る「喰切」と、いわゆるはさみのように刃をすり合わせて切る「すり合わせ」がある。又枝切、コブ切、根切、幹割など、サイズ違いを含めて60種類を製造している。
諏訪田製作所といえば、「SUWADA」ブランドのつめ切りで欧州をはじめ海外へも輸出されて高い評価を得ているが、1926年に一ノ木戸で創業したときは釘の頭や針金などを切る喰切を製造し、56年に新保に移転してから植木盆栽用刃物の製造を始め、同社の礎を築いた。
盆栽ばさみの喰切のすべての種類を製造しているのは、全国でも諏訪田製作所くらいしかなく、供給側が減り続けた。入手が難しくなるなか直接、盆栽愛好者に喰切を届けようと、オンラインショップでの販売を決めた。
諏訪田製作所はこれまで喰切を商社などに納めていたため「SUWADA」の名前が表に出ることはなく、盆栽愛好者の多くがそれと知らずに「SUWADA」の喰切を使ってきた。諏訪田製作所のつめ切りは良く知っていても、喰切を作っていることを知らない人がほとんど。近年の盆栽人気の高まりにより、はさみに興味を持つ人から工場から直接、買いたいという声が増えたことにも背中を押され、自社販売に踏み切った。これに伴ってオンラインショップ用につめ切りと共通したイメージの高級感あふれる黒いパッケージも用意した。
イギリス・ロンドンで開かれる「チェルシー・フラワー・ショー」には、2010年から毎年、出展。日本からは唯一の出展であり、唯一の盆栽関係の出展で、ことしは4つ星の評価を受けた。ことし4月に埼玉県を会場に28年ぶりに日本で開かれた第8回世界盆栽大会にも出展して「盆栽の諏訪田」も印象づけている。
成田空港に新しくオープンした盆栽を扱うショップ「盆栽京都」や、昨年パリにオープンした「MITSUKOSHI PARIS」での期間限定販売が決まった。イギリス商工会議所日本支部からも取材の申し込みがあり、海外での可能性が広がっている。
小林社長は「喰切を残していかなければならないし、諏訪田にはその責任があり、供給の義務がある。オンラインショップで喰切を扱うことにしたのは、その意思表示でもある」と小林社長は力を込める。短期的な視野ではなく、「こうした伝統を守り続けることで地域の子どもたちも工場を見に来てくれる」と将来へバトンを渡すことも見据えている。