日本の包丁にほれ込んでカナダで刃物を販売する5店を経営するケビン・ケントさん(47)は、07年の会社設立から10年の節目を記念して日本国内の取り引き先を訪問し、記念の盾をプレゼント。25日から27日までの3日間は燕三条地域の包丁メーカーなどを回っている。
25日に最初に訪問したのは燕市・藤次郎株式会社(藤田進社長)のナイフギャラリー。英語と日本語で「関係構築10周年を記念して」などとあるプレートをケビン・ケントさんから藤田進社長に手渡した。
藤次郎の包丁は当初からケビン・ケントさんの店で扱っている。藤田社長は「ケビンさんが会社を立ち上げてから10年、藤次郎を扱っていただいているのはありがたいこと。日本人や日本の文化を好きな海外の人が日本人以上に日本を愛してくれている」と国を超えて信頼関係が築かれていることに感謝した。
ことし7月にオープンした藤次郎のオープンファクトリーも見学した。ケビン・ケントさんは年に何度か来日しているが、このオープンファクトリーの見学は初めてで、ほとんどの製造工程を公開していることに驚き、繊細な仕事ぶりをつぶさに観察していた。
ケビン・ケントさんはイギリス・ロンドンの有名店で名高いシェフのもとで副料理長を務めていたときに日本の包丁と出会った。07年からキッチンで働くかたわら自転車にまたがって包丁を詰めたリュックを背負ってカナダのカルガリー市内のレストランを回って包丁を売った。
カルガリー市内に最初の店舗をオープンし、ナイフウェア社(Knifewear Inc.)を設立してCEOに就き、さらにカルガリー、エドモント、オタワ、バンクーバーと今は国内に5店舗を展開。今回は10周年を記念して12日間の日程で熊本県八代市の刃物メーカー、福井県越前市のタケフナイフビレッジ、大阪の砥石(といし)メーカー、岡山の刃物メーカーなどを回った。最後に燕三条地域を訪れ、三条製作所、日野浦刃物工房、タダフサ、聖工房も訪問している。
日本が大好きなケビン・ケントさん。40カ国以上を旅した経験があるが、そのなかでも「日本は独特な文化がある」。最近、家をリノベーションしたが、畳を入れるほどの凝りようだ。ほかの国ではビジネスライクになることが多いが、日本は「皆さん温かく迎えてくれ、ほかに国とはちょっと違い、個人的な付き合いに広がる」と言う。
自身が訪日しなくてもビジネスに問題はないが、「顔をあわせて仕事をしたい」と、メンタリティーも日本的。日本の包丁の魅力について、切れ味の良く、その状態が長く続く、軽い、見た目が美しいことなどをあげる。今も初めて日本の包丁を使ったときの切れ味の驚きを忘れない。
包丁の研ぎ直しや包丁を研ぐ教室も行っている。カナダでは包丁を研ぐ習慣がなく、1回目の研ぎ直しは無料だが、2回目以降は有料。そのうち半額は慈善団体への寄付に充て、昨年は全店舗で750万円を寄付している。日本のメーカーにとってもメンテナンスまで引き受けてくれるのはありがたい。
「刃物を作っている人たちに対する日本国内の関心がもっと高まればいい」と国内での日本の包丁の再評価にも期待している。