安井賞に輝き将来を期待されながら38歳の若さで死去した洋画家、有元利夫(1946-85)の版画作品のコレクションを展示した「有元利夫版画の世界−中村玄コレクション展−」が12月17日(日)まで弥彦村の弥彦の丘美術館で開かれている。
30年前から有元利夫作品を集める新潟市西区・中村玄さんのコレクションを借りた。大半が有元利夫の版画集として出版された版画。リトグラフや銅版画で制作され、有元利夫が手掛けた金属製のブローチを含め44点を展示している。
有元利夫は岡山県津山市に生まれ、生後3カ月で東京谷中へ移り、そこで生涯を暮らした。4年間の浪人生活を送って1969年(昭和44)に念願の東京芸大デザイン科に入学。卒業すると電通に入社して商業デザイナーとして勤務したがわずか3年ほどで辞め、創作に没頭した。
絵画をはじめ版画や彫刻も手掛け、音楽にも造詣が深く自身も楽器を演奏し、友人とアンサンブルをつくる入れ込みようだった。1978年(昭和53)に安井賞特別賞、1981年(昭和56)に安井賞を受賞したが、1985年(昭和60)に肝臓がんのため38歳で死去した。
今回の企画展で有元利夫の妻で陶芸家の容子氏が寄せた文章で「日本の古いものとヨーロッパの古いものを融合させ独自の世界を作り上げること、そして彼にとっての『時間』を表現することは実に面白いことだったと思います。」と書いている。有元利夫のイメージが浮遊感や静謐(せいひつ)さとして作品に表出。画集ごとに設計された統一された世界観に引き込まれる。
作曲家で田鎖大志郎横浜国大名誉教授とともに制作した銅版画集『7つの音楽』は、収められた7葉の作品のなかに左に田鎖大志郎名誉教授がつくった曲の楽譜、、右に有元利夫の作品を配置。録音テープ付きで、有元利夫ならではの独創的な作品だ。
「有元利夫作品集」に収録されたリトグラフ「コケット」も展示し、中村玄さんが有元利夫の作品を収集するきっかけになった作品。参考で有元利夫の展覧会の図録や作品をデザインしたカレンダーの展示も行っているほか、会場では1980年(昭和55)に有元利夫が作曲し、ハープの演奏を収録してCDがリリースされた曲「ロンド」がBGMとして流れている。
関連イベントとしてコレクターの中村玄さんが23日(木・祝)と12月10日(日)、洋画家の猪爪彦一さんが12月2日(土)ギャラリートークを行う。さらに12月3日(日)午後2時からギャラリーコンサートを行い、渋谷陽子さんのチェロ、佐藤芳明さんのアコーディオンで有元利夫作曲の「ロンド」などを演奏する。関連イベントはいずれも無料だが、入館料が必要。問い合わせは弥彦の丘美術館(電話:0256-94-4875)へ。