5日行われた燕市立小池中学校の卒業式で笠原徹校長の式辞がユニークだった。卒業式の式辞は、どちらかといえば当たり障りのない抽象的で、名言を引用したり、精神論を込めたりと、どこの学校でも使えるような内容のことが多いが、笠原校長の式辞は小池中ならでは攻めた内容だった。
式辞には「糸半(いとはん)プロジェクト」という言葉が出てくる。これは小池中が2015年から取り組む生徒と地域が縦糸と横糸の関係で布を織り成すようにつながりを深める地域貢献活動で、糸半朝会と称して地元経営者の話を聞き、今年度は生徒が地元企業を訪問して経営者を取材し、「糸半新聞」を発行した。
式辞では糸半プロジェクトの成果を喜び、プロジェクトにかかわった卒業生をほめた。金属加工のまち燕市にふさわしく金属の化学変化に例えて卒業生を鼓舞。さらにこれからの燕を背負う人材としての成長を願うという、市長のお株を奪うような燕愛あふれた内容だった。冒頭のあいさつ部分を除き、全文を引用する。
さて、卒業生のみなさん。皆さんは素直な態度でとても明るく学校生活を送っていました。体育祭、合唱祭などの学校行事では、まとまる力のすごさを示してくれました。とくに体育祭の力強い応援歌や工夫を凝らした踊り、合唱祭での美しいハーモニーの歌声は忘れられません。その力はリーダーたちのまとめる力だけでは発揮できません。お互いに思いやる力があってこそ発揮できるものです。
小池中学校は開校当時、心を耕す学園という意味で“耕心学園”と言われていたと糸半朝会で聞きました。皆さんの思いやりの心は耕心学園を具現化するものでした。
また、糸半プロジェクトのなかでクリーン作戦、認知症サポーター講座、地域合同防災訓練に参加しました。今年度は、地域連携バージョンとして地域で活躍される企業経営者の皆さまや卒業生の皆さまからお話を聞き、その成果を「糸半教えます」というキャッチフレーズで糸半新聞にも載せてくれました。この糸半プロジェクトは、小池中学校の代名詞として後輩たちがしっかりと受け継いでくれると思います。
卒業にあたり皆さんに伝えたいことがあります。それは新たな場所で、自分のなかで化学変化を起こしてほしいということです。化学変化は物質と物質がふれ合っただけでは起こりません。高いエネルギーが必要なんです。
例えば加工しにくい金属であるチタンは削られることで酸素と結びつき、薄い膜を作ります。この膜がチタンをさびにくいようにしています。また、ステンレスはコークスと一緒に熱せられることで少し炭素が混じります。この炭素が鉄を硬い鋼に変えています。
皆さんが小池中学校で純粋なチタンや鉄のように自分自身を伸ばし、基礎をしっかりとつくってきました。これからは、新しい環境で新しい友だちと出会い、新たな経験を積みます。その友だちや経験は、自分を少し削ったり、自分の中に異質のものを入れたり、そういうことになりますから決してやさしいことではありません。しかし、新しいことに自ら挑戦するからこそ、さびない、硬い、たくましい人として成長できるのです。
糸半朝会の講演会でたくさんの方からお話をいただきましたが、リーマンショックからいち早く立ち直ったのは日本中で燕だったというお話を覚えていますか。各企業が持ち味を生かし、互いに知恵を出し合い、新たな材料や新たな分野に挑戦したというお話でした。努力すれば必ずスタートラインに立つことができるともお話しされました。ここまで自分をつくり上げた皆さんですから、新しいことに挑戦し、化学変化を自分で起こし、これからも燕を背負ってくれる人材として今後いっそう活躍してくれるものと信じています。
皆さんはひとりではありません。これまで一緒にいた仲間たちがいます。心から温かく見守っていただいている保護者の皆さまもいます。もちろん、小池中学校の先生方、後輩たちも君たちの活躍を応援しています。自分の力を思う存分、発揮し、化学変化を起こし、社会になくてはならない自分になってほしいと思います。
さあ、社会に向かって旅立つための準備ができました。自分の夢に向かって自信をもって進んでください。皆さんの活躍を心から祈っています。行ってらっしゃい。