三条市若手芸術家支援事業の第5弾、三条市出身の若手芸術家を支援する作品展に選ばれたのは、県立見附高校美術教諭の美術家、中村信(まこと)さん(53)。10日から14日まで三条東公民館で「中村信<光の色 , 風の形>展」が開かれている。
初日10日は午前10時から開場式、テープカットも行われた。国定勇人市長はあいさつで、中村さんに芸術分野をたずねると「絵画と現代美術ですという大変、漠然としたテーマ設定をいただきました」と紹介して笑わせた。「なかなか言葉で表すことのできない分野領域」と感じ、「これから五感で体感できることを非常に楽しみにしている」と展覧会に期待した。
中村さんはあいさつで、「若手の芸術家を支援する事業は全国的にも珍しく三条市民で良かったなと感じている」と50歳を過ぎた自身を茶化しつつ、三条市の取り組みに感謝した。ここまでプレッシャーを感じながらの1年で、広い会場スペースが埋まるのか、間がもつかと不安で、ここ3カ月は休みなく取り組み、「高級な目薬と漢方薬に助けられて」作品を完成させた。
ここまでの歩みを振り返った。新潟大学教育学部美術科でデザインを専攻し、卒業制作で鉄を溶接した照明器具やいすなど家具を制作し、神奈川県横浜市の高級製造販売会社に就職。東京・赤坂の景観設計の事務所に転職し、新横浜大橋の建設でガラス、ステンレス、黒御影石を使った親柱をデザインした。「残念なことに最近、グーグルのストリートビューで確認したら落書きをされたりしてまして、悲しいなという感じ」と笑った。
その後、三条に戻って県立高校の美術教諭に。02年から個展を中心に自由に制作、発表活動を続けてきた。本名の字画が好きになれず「ヒロセ煌」名義で作品を発表したこともある。
今回の展覧会では、絵画、立体、工芸の作品を展示。作品展の名称の「光の色、風の形」は、カラフルな色彩の絵画と抽象的な立体を表している。制作のテーマ、目指したものは他人とは違う、自分がいいと感じるものを作ること。具体的には明るく鮮やか、ポップであること、精神性や宗教的なイメージ、美しいフォルムなど。
子どものころに「無理やり県内外の美術館、博物館に連れ回してくれた両親には感謝」し、「その経験、そこで見て感じたことが今の基礎となっている」と書家である父の中村城水さんと母に率直な気持ちを伝えた。
最後にゴッホ、クレー、ブランクージ、アンディー・ウォーホールにあこがれて美術の世界に張り、「国内では、奈良美智、会田誠がライバルだと勝手に思っている」とぶちあげてあいさつをしめくくった。
10時半から中村さんは作品解説を行った。2つの多目的ホールを使って平面作品31点、工芸作品14点、立体作品17点の計62点を展示する。平面作品はアクリルで描き、初期の作品を除いて変形サイズ。基本的に写真を撮ってパソコンに取り込んで原画をつくり、それを基に2号という細い筆で描き込んでいく。
パソコンを使うことのメリットを「自分がいいと思う所まで、ここだという所まで作品を動かせる」と手の内を明かした。また、アクリル絵の具を混ぜ合わせて調色し小さなタッパに入れた140色を、これまた自分で作った木の枠に収めて飾った作品「光の色」もある。トランスペアレントで鮮やかな色のレイヤーを表現する中村さんの作品のレシピだ。
ほかにも工芸作品とする寄せ木で作った鳥や魚、立体作品のポリプロピレンのシートで作った犬、シンプルな角材の骨格で表現した犬小屋がある。流れるように滑らかな寄せ木の作品は、生徒に見せるとほしがると言う。
展示方法については事前に綿密に検討していたが、3つの犬の作品は下にそれぞれ緑、赤、黄の3色のポリプロピレンのシートを敷いた。これは事前に想定したものではなく、展示作業中に思いついたアイデアだ。
作品解説が終わり、来場者が一段落して中村さんが控え室に戻ると、長男の亮さん(21)が手提げ袋を手に顔を出した。「お祝いだから」と中から取り出してテーブルに置いたのは、黄色の花が咲くフラワーアレンジメント。
「昔、見附で(個展を)やったときも、お菓子をもってったら喜んでたから」と亮さん。中村さんは「意外と気が利くな」とシャイなところも見た目もそっくりな親子だ。
亮さんは金沢大学2年生で生物学を学ぶ。8、9日の2日間の会場での展示作業を手伝ったのはもちろん、6日朝から1日7時間、展示前の準備や作品制作の仕上げまで手を貸した。ここまで中村さんの展覧会を手伝ったのは初めてで、「意外と大変なんだなって思った」。
今回の個展に向けて「描いているときからずっと見てたんで、そのときも肩がこったとか、目が痛いとか言って、頑張って描いてるなと思って。展示作業も細かくて、5センチ右か、それかそのままにするかで印象が変わったりして」とこだわりも目の当たりにした。
中村さんによると、亮さんは子どものころから制作するかたわらで遊んでいたと言う。今も亮さんに作品の評価を仰ぐことがあり、「ここは違うんじゃないのと言われることがあって、これが結構、当たっている」と言い、亮さんは中村さんにとって最も身近なアドバイザーだ。
亮さんは美術とはまったく違う世界へ進もうとしているが、「サークル活動のちらしやTシャツをデザインしたり、ウェブサイトデザインに役立っている」と亮さん。すかさず「(ウェブサイトを)おれのも作って」と突っ込む中村さんに亮さんは「いいよ」と快諾していた。
5日間とも午前10時から午後6時まで開場し、入場無料。