1日告示された燕市長選は、現職の鈴木力氏(57)が初当選から3機連続で無投票当選した。もうひとり出馬を表明していた佐渡市の行政書士、後藤浩昌氏(57)は1日、立候補届出受け付けが始まる午前8時半の25分前、8時5分に燕市選挙管理委員会と報道各社に立候補のとりやめをファクシミリで送信。まさにドタキャンだった。
後藤氏はこのわずか3日前、3月29日に報道関係者から合同の取材を受け、燕市での行政策を表明したが、その行政策に対する賛同の声も自身の立候補に対する支援の申し出もまったくなかったため、「私が立候補しても当選することはないと判断」し、立候補を取りやめることにしたと説明している。
そう説明されても「何を今さら」という声が聞こえてきそうだ。後藤氏は2017年10月の上越市長選でも立候補を表明しながら、告示の5日前になって立候補とりやめを発表している。
1日午前9時から鈴木陣営の選対本部で行われた出陣式に訪れた米山隆一知事は会場に入って後藤氏の立候補とりやめを聞き、「えー!」と大きな声で驚いた。
取材に対して米山知事は「そりゃ、けしからんと思いますよね。やっぱり選挙って本気でやるもんですよ。そこはよくご反省くださいと思う」とする一方、「正直、ちょっと言い方は悪いかもしれないが、変人を許容するのは民主主義だから仕方ないっていうところはあると思う。制度上は悪いことをしたわけじゃないので、ご反省はいただきたいが、しょうがないということだと思う」とも述べた。
出陣式に集まった支持者らは「やめた!?」 と予想外の事態にまず驚き、「燕市民をばかにしている」、「愚弄(ぐろう)してますよ」と怒った。鈴木氏は街宣に出発したが、無投票当選の公算が大きくなったことから、予定していた応援弁士は省略し、ほぼ鈴木氏がひとりで演説した。
ドタキャンを最も残念に思ったのは、ほかでもない鈴木氏だ。本来なら7日間の選挙戦のところ、無投票になれば告示日1日限りの選挙戦となる。出陣式で鈴木氏は「“鈴木とは誰”だ、と。これを言われ続けた8年間」、「やはり選挙の洗礼を受けない限りは認められないのかなとそんな複雑な思いで8年間、過ごしてきた」とこぼした。
無投票当選が決まったあともあいさつで、選挙戦になれば「私の政策、実績、そして私自身を燕市内の隅々までアピールする絶好のチャンス」だったと話し、選挙戦にならなかったことを残念がった。相手が地元に縁もゆかりもない後藤氏なら、鈴木氏にとっては確実に勝てる相手と選挙戦を戦って自身をアピールし、当選して正統性を高めるという、理想的とも言える対抗馬だった。
前日まで選挙戦しか頭になかった鈴木氏にとっては拍子抜け。市民にとってもこれで投票用紙に誰一人、一度も名前を書いたことのない市長が12年間、市のトップに就くということは、決して好ましいことではない。そもそも選挙戦を泡沫と評されるような後藤氏と戦うのもどうかとも思う。個人的には燕三条青年会議所に立候補者を擁立してほしかった。
ついでに、燕市長選の経費は約2,000万円だが、事前に1人しか立候補を表明している人がいなくても投票用紙の印刷や選挙ポスターの看板の設置などは必ず行うので、たとえドタキャンでもそれで余計に経費がかかることはほとんどない。