新潟市の「水と土の芸術祭」が開かれる14日(土)から10月8日(月)まで、市民プロジェクトのひとつ「空壇プロジェクト 三条仏壇 × 目【mé】 in 岩室温泉」が岩室温泉「ゆもとや」で開かれる。伝統工芸と現代アートが融合した仏壇「空壇」を貴賓室に設置し、客室ごと作品化して宿泊できる空間演出が鑑賞できる。
空壇プロジェクト、岩室温泉旅館組合、NPO法人いわむろやの共同プロジェクト「岩室温泉誘客プロジェクト」で取り組む。会場はゆもとやの約170平方メートルの広さがある貴賓室「初雁
本殿から回廊を延ばし、特殊な漆塗りをほどこしたり、回廊が朽ちたようにところどころ欠損させたりして細部までこだわって古色を演出し、遠くにある風景を見ているような錯角を与える。ほかにも現代芸術活動チーム「目」の中心メンバーのアーティスト、荒神明香
空壇プロジェクトは、仏間のない家にも似合う新しい発想の仏壇を提案しようと、国指定伝統的工芸品の三条仏壇と「目」で2016年に始動。翌17年には空壇を発表している。荒神さんは7月29日から9月17日まで越後妻有地域で開かれる「大地の芸術祭」に「目」が参加し、大地の芸術祭の会場に近い越後湯沢駅と岩室温泉に近い新潟駅を結ぶ現美新幹線に荒神さんの作品が展示されている。
現美新幹線に乗って大地の芸術祭を訪れ、宿泊は岩室温泉での構想から今回のプロジェクトがスタートし、大地の芸術祭と水と土の芸術祭の2つの芸術祭をめぐる旅の拠点として芸術祭鑑賞に付加価値の提案をとアートコーディネーター「クエルカ」の川越千沙子さんが調整役となって進めてきた。
空壇プロジェクトに中心となって取り組むのは、三条仏壇を支える三条・燕・西蒲仏壇組合の理事長でもある山田仏壇店(三条市南四日町1)代表の山田貴之さんは「新しい仏間、祈りの祈りの空間を作りたいから始まった。祈る対象と一緒に生活できる空間が実現した。畳に横になって見てもらってもいい」。ゆもとやの女将、高島涼さんは「宿泊して感じていただけるのは、旅館ならではで、かかわらせてもらって光栄です」と話している。
すでに「空の間」は宿泊可能で、宿泊費は通常より安く1万6500円からに設定。宿泊のない日は午後2時から5時まで誰でも見学できる。宿泊や見学の問い合わせは、ゆもとや(0256-82-2015)へ。また、空壇プロジェクトからの制作、作品に関するコメントは次の通り。
空壇プロジェクトからの制作・作品に関するコメント
・ゆもとやさんにしつらえた空壇のコンセプト(制作開始にあたり考えたこと)
ゆもとやさんは、かつて、源泉から温泉を開かれ受け継いでこられたと伺い ました。そのことをリスペクトし、私たちも訪れたこの温泉地に惹かれながら、 今度はゆもとやさんのお部屋に、新たな滞在する空間を考えてみたいと思いま した。「初雁」をはじめ、ゆもとやさんの建築空間には美しい直線の美が感じ られ、その美しさの中に空壇を沿わせたいと考えました。
また通常であれば、お食事のメニューを良くしたりオプションが増えたりと、 お客さんにとって直接得になる魅力を追加する、足し算でのプランリニューア ルを検討されるところ、今回ゆもとやさんはリニューアルの手法にアートを選 択されました。その思いにこたえ、自分たちに何ができるかを考えた結果、足 し算でない、「なにもしない」という引き算の魅力を提案させてもらいたいと 思いました。
・温泉という宿泊施設にしつらえることに対して、特に考えたこと
温泉は、大地のエネルギーに人間が惹かれて生まれるもの。まるで寺社仏閣 の御神体のようです。私たちも岩室温泉を感じて、自然に身を任せて、導かれ るままに空壇を置こうと思いました。
温泉旅館は、プライベートな時間を過ごすために、旅客が入れ代わり立ち代 わりに訪れる場所です。極めてプライベートな時間が、パブリックな空間に流 れていて、それはパブリックの中で祈りを捧げる行為が繰り返される、お寺と もどこか近く、遠くないようにも思えます。温泉旅館に空壇をしつらえること は初めてのことでしたが、このような場のもつ性質から、自然と空壇が入って いけたのかもしれません。
・空間をどのように楽しんでもらいたいか
これは、言葉にするのはとても難しいですが、何も考えないことを楽しんで もらえたらと思っています。昔からそうかもしれませんが、特に現代社会では、 絶えず情報が流れてきて逃れられず離れることができません。厳密にまったく 何も考えないことや、忘れてしまうことはできないですが、例えば空間のなか で「お香の煙をただみること」や「没頭し無心で制作された伝統工芸士の職人技を目にすること」など、いくつかの「何も考えない」状態に導くきっかけを 置いてみました。しかし空間にあるそれらを全部見ても、見てもらわなくても いいのです。ただぼうっと過ごすことや、そこに居るという時間を過ごしてみ てほしいです。
・空壇の魅力とは
以前、しつらえた空壇をパッと見て「まるで遠くにあるお寺を見ているよう だ」と言ってもらったことがあります。意図してそのように制作、設置したわ けではありませんが、そこには朽ちた様子など細部にまでとことんこだわり、 突き詰めるアーティストの美学と、数百年、脈々と仏壇を作り続けてきた伝統 工芸士にしか表せない比率や省略の美、その二つの美が一つに融合しています。 空壇は常々、具体的な狙いを極力持たずに、そういった見立てのようなことが 起こりうる配置を大切にしています。それは空壇の造形だけに限らず、プロジ ェクトの進め方においてもとても大切にしていることです。空壇プロジェクト に関わるそれぞれの人や思い、事象が、流れの中で自然に合わさってここまで やってきました。今回も設営が終わってから、奥の和室の本殿がたまたま、弥 彦さんの方に向いていることを知りました。岩室温泉が、江戸の頃から「目」 に効く薬師湯として親しまれてきたことも後から知り、この温泉地となにか深 いご縁を感じました。
空壇のプロジェクトで大事にしたい自然というものが、ここで過ごされるお 客さんのゆっくりとした時間の中にも生まれたら、と心から思っています。
空壇プロジェクト一同