新潟市西蒲区の岩室温泉街の宿泊施設、店舗、寺などに障害者の制作したアート作品を展示する初めての「岩室あなぐま芸術祭」が1日から9日まで開かれている。来年秋に初めて新潟県で開かれる第19回全国障害者芸術・文化祭にいがた大会への参加、2年後の東京五輪・パラリンピックに向けた障害者の宿泊環境の整備も目指す壮大な取り組みの第一歩であり、温泉街から結果的に福祉を観光につなげる全国的にも例のない新しいまちづくりの始まりでもある。
展示会場は13カ所。障害をもつ県内の障害者福祉施設を利用する人や特別支援学校に通う子どもなど30人近くが制作した作品を単純に展示するだけでなく、各施設の空間を生かしたインスタレーションのように見せ方にも細心の注意を払う。
慶覚寺では本堂に3人の作品を展示する。中央の空間には、60歳代の男性が巨大な養生シートに黒1色でお気に入りの侍などをびっしり描いた作品をカーブした左右のパネルに壁画のように張り、天井も覆うように作品を飾る。金色の内陣と相まって荘厳な雰囲気さえ漂い、圧倒させられる。
「ゆもとや」は、1階のロビーラウンジなどに10点の絵画を展示。菓子店「小富士屋」は、小上がりのようなスペースにざっと200体もの手作りのぬいぐみるみを展示する。展示会場を示した地図「あなぐマップ」も作成し、温泉街を歩いて見学してもらう。新潟市岩室観光施設「いわむろや」では、障害者が制作したグッズの販売も行っている。
同時に毎日のように関連イベントを行っている。ワークショップ、持続可能な地域づくりを考える読書会、遊戯会、哲学対話、映画上映会など幅広い。
芸術祭は岩室地域コミュニティ協議会が主催し、障害者福祉やまちづくりの地元団体や個人、大学准教授など約60の団体・個人で構成する実行委員会が運営。障害者の表現活動を応援するNPO法人アートキャンプ新潟が協働する。
「いわむろや」館長の小倉壮平さん(37)は、昨年12月に小千谷市の極楽寺で開かれたアール・ブリュット展を見学した。そのコーディネートを担当していたのが、アートキャンプ新潟の高橋和枝さん(44)。今回の芸術祭の代表にも就いた。
小倉さんはアール・ブリュット展で「興味をもち、住職の話も聞いて岩室でやりたいなと思った。作品を通じて障害のイメージが変わるような取り組みを温泉地でやったら変化が起きるのでは」と考えたのが始まりだった。
基本的なノウハウはあった。2015年まで岩室温泉街に武蔵野美術大学の卒業制作作品を展示するイベント「アートサイト岩室温泉」が開かれている。その手法をベースに置き換えればいい。そのうちに宿泊につなげたいと思うようになった。
障害者側は宿泊施設に迷惑をかけてはいけないという遠慮からハードルが高く、宿泊施設側からは満足なホスピタリティーを提供できるかという不安から障害者の利用には消極的だ。その垣根を越えてほしいと願う。実現すれば福祉が観光につながる。
宿泊施設の足りないところを見える化しようと、ことし8月初めに障害のある子どもとお母さん4組とランチミーティングを行った。今回の芸術祭でも岩室温泉に宿泊して見学する障害者が何組かある。重度の障害のある人が宿泊するプランをつくって10月には2回に分けて3組ずつが宿泊することになっている。
来年開かれる第19回全国障害者芸術・文化祭にいがた大会では、岩室あなぐま芸術祭がメーンイベントにひとつになることを期待する。東京五輪・パラリンピックでは障害のある人から岩室温泉へ泊まりに来てもらえる環境をつくりたい。小倉さんは「温泉地で障害者福祉から観光へつなげるような取り組みは珍しい。岩室スタンダードとして全国モデルのようにしていきたい」と夢は広がる。
高橋さんは、ただ展示するだけでなく、作品を制作した人たちの思いを理解したうえで展示することに心を砕いた。そのためには直接、本人と対話することもあった。「つくった人の思いをくみとって配置するのも、リスペクトしているから。その点では関心をもってもらえるように1ミリもゆずっていない」と高橋さんは強調する。
「文化祭じゃない」とも言う。「地元の人から展示し終わったときに腑(ふ)に落ちる経験をしたと言われたのはうれしかった。「どんな人が制作しているのかにも思いをはせてほしい」と願っている。岩室あなぐま芸術祭のテーマは「風穴を開ける」。実現までにすでにいろいろな風穴を開け、これからも次々と風穴を開けていく。展示場所と関連イベントは次の通り。
■関連イベント
2日(日)RUN伴合同ワークショップ 「 たてのいと・よこのいと 」
会場:いわむろや芝生広場4日(火) 持続可能な地域づくりを考える読書会
時間:12:30-13:30
料金:参加無料
第一部:コミュニティ・ビジネスとして「福祉とビジネス」の関係を考える5日(水)みんなパラリンアスリート vol.1
共催:おらってにいがた市民エネルギー協議会
講師:海老田大五朗(新潟青陵大学福祉心理学部准教授)
会場:ほてる大橋
時間:14:00-16:00
料金:1,000円(資料・お茶代)
カーリンコン遊戯会。パラリンピックの公式種目を実際にプレイしてみませんか?6日(木)哲学対話「障害とアートと哲学と」
会場:かたくりの里
時間:10:30-11:30(10:15受付開始)
料金:無料
岩室保育園園児も参加
講師:阿部ふく子(新潟大学人文学部准教授)7日(金)持続可能な地域づくりを考える読書会
会場:いわむろや(伝承文化伝承館)
時間:19:00-21:00
料金:500円
第二部:コミュニティ・ビジネスにおけるケースワークスタディ
共催:おらってにいがた市民エネルギー協議会
講師:海老田大五朗(新潟青陵大学福祉心理学部准教授)
会場:ほてる大橋
時間:18:30-20:30
料金:1,000円(資料・お茶代)
8日(土)みんなパラリンアスリート vol.2
ボッチャ遊戯会。パラリンピックの公式種目を実際にプレイしてみませんか?8日(土)つばめのブックバー(あなぐま出張編)
会場:かたくりの里
時間:13:30-15:00(13:15受付開始)
料金:無料
シンガーソングライター岡村翼による音楽パフォーマンスも同時開催
リハビリテーション病院患者も参加予定
主催:つばめの学校7日(金)-8(土) 岩室温泉で体験する地域デザインツアー
一冊の本を読み解き、理解を深めていく「つばめのブックバー」があなぐま芸術祭にて出張開催。
会場:いわむろや(展示室)
時間:open16:30/start17:00
料金:1500円(1ドリンク付)
温泉合宿 9月7日(金)〜8日(土)9日(日) クロージング 映画「おだやかな革命」上映会 & フィナーレ岡村翼・原生真ライブ
大学生向けの地域を学ぶボランティア&スタディツアー
講師:海老田大五郎(新潟青陵大学福祉心理学部准教授)
高橋和枝(岩室あなぐま芸術祭代表・NPO法人アートキャンプ新潟)
小倉壮平(NPO法人いわむろや)
会場:宿泊…岩室スロウホステル7日(金)
10:00- 芸術祭見学 & まちあるき(昼食)
13:00- 会場ボランティア
15:00- 休憩
17:00- 読書会およびその準備
20:30- 懇親会・温泉入浴
8日(土)
8:30- 朝の勉強会「地域デザインについて」(高橋・小倉)
9:30- 会場ボランティア
12:00- 休憩
13:00- 会場ボランティア
16:00- 振り返り
17:00- 終了・解散
定員:7名
料金:6000円
宿泊2500円、食事(4食)3500円
※温泉入浴500円は希望者のみ
※懇親会代は別途かかります
(持込、持寄りにしますのでそんなに高くかかりません)
協力:岩室スロウホステル、いわむろ案内人
共催:おらってにいがた市民エネルギー協議会
会場:ゆもとや
時間:15:00- 映画「おだやかな革命」上映
17:00- 岡村翼・原生真ライブ
料金:カンパ500円
(佐藤)