新潟市の「水と土の芸術祭」の一環で17日、新潟市中央区の銭湯「朝日湯」で東京都日野市に住む銭湯絵師、丸山清人さん(83)によるライブペインティングが行われ、男湯と女湯の背景を1日で描き上げた。
午前9時からほぼ12時間かけて壁に隔てられた向かって左の男湯と女湯の絵が一体となって連なるように青空に白い雲、小島と帆船が浮かぶ海を描いた。しかしモチーフは異なり、男湯は富士山がそびえる「西伊豆」、女湯は白い灯台が立つ「潮岬」を描いた。
赤、青、黄、群青に白の5色のペンキだけを混ぜ合わせて、自在に色をつくりだす。太さや形が異なるはけやローラーを使い、大胆で繊細に、しかも圧倒的な速さで描く。
イメージは丸山さんの頭の中だけにあり、境界線を目印ていどに引いただけで、あとは一気に塗っていく。みるみる風景が広がっていき、雲を描き加えたり、陰影を表現したりするとぐっと遠近感が増し、見学する人たちをうならせた。
県内の銭湯の背景画は、長持するタイルのモザイク画が多い。朝日湯も以前は富士山の絵があったが、1964年の新潟地震で壊れてから無地のタイルを張った。丸山さんはタイルに描くことはめったになく、タイルは目地があるのでいつもより手こずっていた。
手伝うのは丸山さんに弟子入りして1年になる東京芸大院生で海外でもモデルとして活躍する勝海麻衣さん(24)。丸山さんの指示に「はいっ!」と答え、はけを用意したり、一緒にはけを走らせたり。丸山さんの妻、美千代さん(74)も足場を支えたり、「もう少し灯台は大きくした方がいいんじゃない?」とアドバイスしたりと、3人の絶妙なコンビネーションで背景が生み出した。
丸山さんは18歳でおじさんが経営する東京の広告会社に就職して社長に弟子入りし、銭湯絵を描いて約60年。40歳を過ぎて独立した。銭湯が減って銭湯絵を描くことも減ったが、逆にイベントのライブペインティングの依頼が増え、若いころより忙しいくらいだ。趣味も絵を描くことで、年2回の個展を恒例にしている。新潟での仕事はこれが初めてだった。
銭湯絵師は、ほかに丸山さんの弟弟子と、最近になって独立したその弟子の全国に3人だけ。千代美さんは「(丸山さんは)小さいころから絵が好きだったようで、それを一生の仕事にしたから幸せじゃないですか」と笑った。
今回のイベントを主催したのは新潟お笑い集団NAMARA。所属するお笑いコンビ「ジャックポット」が2017年1月に新潟浴場組合から「にいがた銭湯大使」に任命され、銭湯のPRに努めている。その活動の一環で「にいがた銭湯ものがたり」として企画したもので、丸山さんのライブペインティングの一方で脱衣所で東京銭湯大使のフランス出身ステファニー・コロインさんによるトークショー、落語、にいがた銭湯検定も行った。