ことしの夏、新潟県加茂市の商店街にアイスクリーム店「AMEYA AISU(アメヤ・アイス)」(捧泰士店主・加茂市仲町3-5)がオープンした。各地で人気のジェラート店とは一線を画す独自のスタイルを貫き、老舗もち屋の五代目として昔は地元に多くあった「あずきアイス」も復活させて注目を集めている。
店内デザインのコンセプトは米国・ニューヨークのブルックリン風。店主の捧泰士さん(28)が子どものころに見た米国映画の記憶を再現した。
商店街でもひときわ目立つアメリカンな重厚なガラス戸を引くと、左の壁は米国の地下鉄に使われるサブウェイタイルが奥へ広がる。右の壁は塗りむらが味わいのある水墨仕上げ。モノトーンを基調にシックでおとなな空間を演出する。
カウンター8席とテーブル席が2席。吹き抜けになった2階にもベンチがある。施工は知り合いの左官や大工に頼み、現場で相談しながらアドリブでデザインした部分もある。
アイスクリームを冷やしておいくアイスポッドは、上から見て四角い形状が一般的だが、ほかのジェラート店とかぶらないように円形のイタリア製をオーダーメードした。8つのアイスポッドを彩るカラフルなアイスクリームをのぞき見る楽しさもある。
味はヨーグルト、ラムレーズン、ピスタチオ、ブラッドオレンジなどがあり、すべて自家製。テークアウトなら20種類前後ものラインナップだ。こだわりは「あずきアイス」。青木飴屋の二代目が、あずきアイスを始めたらしいが、数十年前にやめてしまった。青木飴屋に限らず当時は加茂市内であずきアイスを販売していた店が複数あったと捧さんは聞いている。
当時のあずきアイスの味を母や祖父に確認してもらいながら再現した。あずきアイスはどのアイスクリームより作るのが難しい。アズキのでんぷん室が邪魔をして、作ったあとも状態がどんどん変わるので、ケアの必要がある。機械が洗練されて良くも悪くも昔のような「むら」までは再現できないが、納得できる完成度に仕上がった。
すべてのアイスクリームは、その日の気温を考慮して甘さを調整する。暑ければ甘さを控えてさっぱりした味に、涼しければ甘くと、それも甘さを感覚ではなく糖度を計測して調整している。カップだけの提供で、当面は税込みでシングル300円、ダブル350円で販売する。
加えてバーカウンターを備えているのがユニークだ。ビールはクラフトビールなど16種類、ジンは6種で県央地域ではめったに出会えないものある。ほかにスコッチ、ワイン、バーボン、ラムもそろえ、アイスクリームと一緒に酒を味わえる。
スイーツに目のない学校帰りの高校生はもちろん、昼から酒を目当てにリタイアした男性の来店もあり、意外と年配の人の利用が多く、客足も順調だ。
青木飴屋の始まりは定かではないが、1897年以前から営業していたことがわかっており、少なくとも120年の歴史がある。今は五目おこわや助六寿司を販売している。
店舗は長屋のように横に4つの店舗がつながっている。青木飴屋の向かって左隣で営業していた化粧品店が昨年2月で廃業した。「シャッターを閉めたくない」、「どうせなら自分が店をデザインしたい」と捧さんはラーメン屋やレストランなど飲食業に就いた経験もあり、カフェや居酒屋も考えたが、母の倫子さん(61)から「あずきアイスを復活させたら?」と勧められた。
昔、加茂市にはあずきアイスを売る店がいくつかあって懐かしいという客からの要望もあった。ジェラートではなく加茂の歴史でもある「アイスクリーム」を売る店に決めた。店名のアイスも英語の「ICE」ではなく、ローマ字表記の「AISU」としたのも捧さん流のこだわりだ。
店のキャッチフレーズは「derivation of culture(文化の派生)」。店の入り口付近の壁に80年前と50年前の青木飴屋で撮影したモノクロ写真を張ってある。売っているものは変わっても老舗の歴史や文化のDNAを未来につなぐ。
1年間、定期的に上京してアイスクリームの講習会に参加し、一からアイスクリームの作り方を学んだ。「うちだけにしか出せない空間を」と、酒の提供も含めて差別化にこだわった。「自分の家のようにゆったりと気兼ねなく過ごしてほしい」と来店を待っている。
原則は「6」と「7」のつく日が定休日で、午前10時から午後7時まで、日曜は午後4時まで営業。問い合わせは「AMEYA AISU」(0256-64-8797)へ。
(佐藤)