秋の叙勲で伝統工芸業務功労として瑞宝単光章を受けた伝統工芸士でのみや打刃物を製造する鍛冶職人、池田慶郎(いけだ よしろう)さん(77)=三条市荒町1=に22日、国定勇人三条市長から勲章と勲記を伝達した。
池田さんは午後1時半過ぎに越後三条鍛冶集団(36人)の細川敬会長と三条鍛冶道場の長谷川晴生館長とともに市役所市長室を訪れた。白手袋をつけた国定勇人市長が勲記を読み上げて池田さんに手渡し、続いて勲章を手渡した。
池田さんは「自分はこんなのもらうなんてことしてないと思ってるので、身に余る光栄。ましてや市長さんからこうやっていただくなんて、こんなにありがたく、うれしいことはない」、「皇居へ胸を張って行けるなんてすごく抵抗を感じた」と謙そんした。
国定市長は「これまでの長きにわたってわたしたちを牽引していただいたおかげ」と述べ、せっかくだからと再び白手袋をつけて緊張しながら箱を開いて勲章を見せてもらい、「すごいですね」とあらためてその重みを感じていた。
金工品(越後三条打刃物)製造従事者としての受章。子どものころから父幸司さんが経営する池田のみ製作所で見よう見まねで仕事を手伝い、15歳になった1956年から本格的に働いて60年余りになる。技術の向上と継承で指導的役割を果たし、2011年に越後三条打刃物伝統工芸士(総合部門)に認定された。
鉄に鋼が溶接してある複合材を購入して刃物を製造する職人が多いなか、池田さんは伝統技術で自ら素材に適した鋼を地鉄に鍛接することにこだわる。のみ以外にも小刀やなたも手がける。炭素などの含有元素量の違いによる鋼の強度(硬度)や加工性などの性質を熟知し、各製品で素材に合わせた温度管理や火造り作業を行い、最適な強度をもった刃物を製造できる。
2001年には貴重な隕石鉄への鋼付けに挑戦した。隕石鉄はさまざまな成分を含むため鋼が接着しないとされてきたが、公的機関の支援も受けてその鍛接に世界で初めて成功。切出小刀を製造し、全国の刃物業界から注目され、業界のレベルアップに貢献した。
三条の鍛冶の技術向上、後継者育成を越後三条鍛冶集団の監事で、人材育成に努めてきた。
1987年から89年にかけて2回、国際協力機構(JICA)の技術協力専門家としてインドネシアに渡って技術指導を行った。これが縁で国内で越後三条鍛冶集団筆頭師範としてJICA研修事業に協力し、ブータンなど8か国の政府職員や大学職員へ自由鍛造による鍛冶製品の製造を指導した。
海外からも注目されて国内外から注文を受けるようになり、燕三条地域の製品の社会的認知度も高めた。国内でも全国の名だたる宮大工に愛用され、全国の伝統建築物の復興にも役立った。
三条市内外小中学校からの協力要請を受けて、子どもたちに鍛冶技術を教える指導員も務め、和釘の製造などで三条の伝統文化を伝授。県の「にいがた県央マイスター」認定者として自らが企画するものづくり体験教室「マイスター塾」や工業高校・テクノスクールの外部講師も務めた。
鍛冶の伝統技術を伝承する「さんじょう鍛冶道場」に発足当初の1992年からかかわり、2005年オープンした三条鍛冶道場建設の原動力となった。今も師範として活動し、越後三条打刃物が将来的に存続し続ける基盤の確立に大きく寄与している。雅号は「國慶」。
伝達式のあと池田さんは「もう少し仕事の方とか、できる範囲で頑張りたいと思っている。私らの仕事はこれで終わりはないから、最後はないというか、極めることはできない世界ですから、きょうよりもあした、あしたよりあさってというふうにしていかなければしていかないとだめな仕事ですから、やれるうちは頑張る」と話した。
池田さんへの叙勲は、越後三条鍛冶集団から伝的工芸品産業振興協会を通じて推薦した。越後三条鍛冶集団では、年明けにも叙勲を祝う会を開くことにしている。
(佐藤)