昨年秋、イギリス・ロンドンの「ジャパン・ハウス ロンドン」の開館記念イベントとして「燕三条 工場の祭典」とコラボレーションした企画展が開かれた。その会場を訪れたロンドンの若手鍛冶職人が1月7、8日と燕三条地域を訪れ、本場の日本の鍛冶の技を視察し、学んでいる。
来日したのは、5年前に設立した包丁工房「ブレンヘイム・フォッジ(BLENHEIM FORGE)」の共同経営者で鍛冶職人のジェームズ・ロスハリス(James Ros-Harris)さん(29)とリチャード・ワーナー(Richard Warner)さん(31)、事務のコニー・ギャラガー(Connie Gallagher)さん(29)、加えて友人のロウアン・ミーコック(Rowan Meacock)さん(29)の4人。2週間の日程でキャンピングカーをレンタルして各地を回っており、来日から1週間ほどでたって燕三条地域を訪れた。
ロスハリスさんらは「ジャパン・ハウス ロンドン」の燕三条をテーマにした企画展に来場した。三条市から会場へ出向いていた庖丁工房タダフサの曽根忠幸社長、山谷産業の山谷武範社長、日野浦刃物工房4代目の日野浦睦さんらと出会って意気投合し、みんなでブレンヘイム・フォッジの工房の見学にも行った。
工房は線路の高架下にある。デザイナーやエンジニアが裏庭で趣味で刃物作りを趣味として始めた。しかし、専門的に技術を学んだり、師匠についたりしたわけではなく、YouTubeを見るなどいわば独学で学んだ。
燕三条地域以上に機械を使わない手作業で作られており、積層材も加工されたものを仕入れるのではなく、自分たちで作ってダマスカス仕上げの包丁を作っている。木工の柄の部分、製造に必要な道具も自分たちで手作りしている。近く来日するという話を聞き、それなら燕三条地域へも足を運ぶよう勧め、それが実現した。
7日に燕三条地域に入り、午後から庖丁工房タダフサを訪れた。仕事でも着ているのかジャケットやジーンズには汚れが付いていて、まるで観光気分は感じられず、ロンドンの工房を出てそのままの来たような服装だった。
とくに鍛造作業に注目し、熱間鍛造と冷間鍛造の違いなどについて熱心に質問。ロンドンの工房では使っていないスプリングハンマーを使った鍛造作業にも初めて挑戦し、「材料を動かすリズムが大切」と難しさを体感した。
以前から庖丁工房タダフサや日野浦刃物工房は知っていたが、燕三条地域の産地の存在は企画展などを通じて初めて知った。彼らにとってはまさに包丁づくりの本場。「インスピレーションを感じた」、「ロンドンでは手に入らない道具がある」と刺激を受け、情報を得ていた。
曽根社長は「彼らは5年間、手探りでやってきた。ぼくらがお手伝いして成長するきっかけになればと燕三条へ来るよう呼びかけた」と言う。ブレンヘイム・フォッジのインスタグラムのアカウントには、2万2,900人ものフォロワーがあり、大きな注目を集めていることがわかる。そんな彼らが燕三条へ勉強に来たことにより、相対的に燕三条の価値、ブランドの向上につながることにも期待を寄せている。
2日目の8日は山村製作所、吉金刃物製作所、三条鍛冶道場などの訪問を予定している。