新潟県三条市下保内、道の駅「庭園の郷 保内」は13日、十日町市で1月に開かれる節季市、通称「チンコロ市」で売られる縁起物のチンコロを初めて販売したところ、行列ができてあっという間に完売する人気を集めた。
チンコロはシンコ(新粉)とも呼ぶ米粉を原料に子犬などをかたどった縁起物。十日町市では、冬の農閑期に農業の副業としてタケやわらで作る生活用品や民芸品を持ち寄る節季市が江戸時代から開かれているが、そのなかでもチンコロが人気だ。
「庭園の郷 保内」では、正月の風物詩を紹介しようと、えとのイノシシをイヌ、ネコ、ウサギ、ネズミなど7種類を18個ずつ、126個を1個300円で販売した。午前10時の販売開始前から訪れる人もあって行列ができた。多くの人から買い求めてもらおうと、購入は1人2個までに制限したが、販売開始から30分足らずで行列に並んだ人の分だけで完売した。
販売したチンコロを作ったのは、十日町市出身で新潟市西区に住む田齋忍さん(39)。すでにチンコロ作りを手伝ってくれている小学校5年の長女康さん(11)とふたりで訪れ、完売後も製作を実演した。夫が三条市出身なので、三条市に住んでいたこともある。
母方の先祖がチンコロを作っていて、田齋さんで五代目。数年前に90歳を超えて亡くなった祖母の関口光江さんから手ほどきを受けた。戦前はチンコロを作る家が何軒かあった。戦後は食糧難もあって最後は祖母の家だけが残った。祖母の時代は婿が米粉の“こね手”を務めるものだったが、祖父が亡くなったことで祖母もやめてしまい、チンコロ作りは完全に途絶えた。
しかし、伝統を伝えていかなければと、祖母はチンコロ作りを再開。あわせていろんな人に作り方を指導したおかげで、チンコロは完全に復活して、十日町の名物のひとつとして定着。チンコロ復活の中興の祖と言える。
昔ながらのチンコロ作りは、こね手、作り手、ちぎり手と完全な分業制で、チンコロ市の前には親せきが集まって作っていた。うるち米の米粉をこね、ゆでたら、さらに半分の米粉を加えて熱いうちにもう1回、こねる。食紅で色づけして形を作ったら一晩、寝かせて強熱で蒸し上げる。想像以上に複雑でデリケートな工程をへて完成し、失敗すると首から折れて縁起物が台無しになる。
田齋さんは幼稚園のころからチンコロの売り子を手伝っていた。田齋さんはチンコロ作りはもちろん、その裏にある歴史や背景も残さなければと祖母に聞き取りもして掘り起こした。2、3年かけてようやく「売ってもいい」と祖母に認められ、チンコロ市に出店するようになった。
「祖母が死ぬ3日前に“血を絶やすな”と言われました」と田齋さんは、祖母の作ったチンコロを守り続ける。「庭園の郷 保内」から販売の依頼を受けたことに「縁を感じました。まさか三条から連絡が来るとは」。夫の実家の両親も訪れ、チンコロを見せてあげられたことを喜んだ。
「チンコロは知名度がないと思っていたので、なんていうか、びっくりしてます」と反響の大きさに驚くばかりだった。「庭園の郷 保内」としても、あまりにも早く完売したので、ぜひ来年も出店ほしいと願っていた。
(佐藤)