日本海に面した新潟県長岡市寺泊野積地区では、盆の送り火の8月16日に精霊棚の供物を載せた船を海へ送り出す風習が細々と受け継がれている。そのようすを記録した三条市出身で燕市に住む写真愛好家、蝶名林稔さん(64)の写真展「送り盆」が7月13日から15日までの3日間、三条東公民館で開かれている。
野積地区では8月13日の盆の墓参りに翌日14日にカヤを編んで船を作る。16日になると早朝に家族総出で先祖の霊を日本海に送る。船を盆ちょうちんで飾り、精霊棚のござを帆にし、供えていた花や果物を載せてできる限りの沖合へ行って海に流す。ササも海へ流し、それぞれの思いを込めて手を合わせ、先祖の霊を送り出す。
この行事を今も続けているのは、数軒しかないらしい。蝶名林さんは20年ほど前から写真撮影のイベントに参加してこの行事を知った。会場には蝶名林さんがこれまで9年間にわたり河野家を取材し、デジタルカメラで撮りためた膨大な作品のなかから47点を選んだ。
カラーデータで撮影したが、砂浜に落ちている色がついたごみが目立たないようにモノクロ風に処理した。多くはHDR(ハイダイナミックレンジ)加工して可能な限り黒つぶれや白とびを抑えて情報量を保ち、全紙か半紙サイズの銀塩写真にプリントして展示している。
蝶名林さんは2015年3月末で定年退職するまで三条市職員を務めた。子どもの記録を残そうと30歳ごろに本格的に写真を始め、社歴約35年。2001年度富士フイルムフォトコンテスト自由写真部門グランプリ受賞、2016年にも富士フイルムフォトコンテストグランプリ受賞の輝かしい受賞歴があり、今は游写会長、新潟県写真芸術協会会員、フォトフレンズ会員。
リタイアすると京都造形芸術大学通信教育部芸術学部美術科写真コースに学び、2017年3月に卒業すると4月からは四谷写真塾佐藤ゼミを受講している。
「京都造形大を出たのをきっかけに何かやりたいと思った」と蝶名林さん。いろんな人にも相談して思いついたのが、野積の送り盆をテーマにした個展。ことし6月14日から20日まで東京・銀座の富士フォトギャラリー銀座、27日から30日まで新潟市美術館市民ギャラリーで開き、今回の地元三条東公民館がいわば巡回展の最後となる。展示作品すべてを収録したA4判の写真集(2,400円)も作成した。
個展は2004年に三条市丸井今井邸で開いて以来で、「東京で一度、個展をやってみたいと思っていた」。銀座では千人、新潟市美術館では200人の来場者があり、「東京では昔の盆行事が懐かしいと言われた」と喜ぶ。野積の風習は「河野さんが続ける限り、これからも撮り続けていきたい」と話している。14日は午前9時から午後6時まで、15日は午後3時まで開く。入場無料。
(佐藤)