金属加工を中心とした地場産業集積地の新潟県燕三条地域の名だたる工場を開放する「燕三条 工場の祭典」。7年目となることしは過去最多の113のKOUBA(工場・耕場・購場)が参加して10月3日(木)から6日(日)までの4日間、開かれ、ことしは初めてオフィシャルブックを刊行した。
オフィシャルブックはB5判上製本で約360ページ。各参加工場を1ページを使って紹介するとともに「暮らしを支える職人の街」、「燕三条年表」、「Artisan Interview」、「燕三条 産地のプロセス」などを20章ほど立て、単なる工場の祭典のガイドブックを越えて読み物として楽しめるように大幅に内容を充実させた。
オリジナルトートバッグ込みで販売価格は税込み2,000円。オリジナルトートバッグの素材は、化学防護服や壁材の透湿防水シートに使われる不織布「タイベック」で、工場の祭典を象徴するピンクストライプをデザインした。
地元で9月4日から燕三条駅観光物産センター「燕三条Wing」、5日から道の駅「燕三条地場産業センター」で販売し、9月半ばから参加企業で販売し、インターネット販売も行う。
先行して8月27日から9月1日まで「一冊の本を売る書店」として知られる東京・銀座の森岡書店と8月31日から9月25日まで東京・代官耶麻の蔦屋書店で燕三条エリアで作られたアイテムとあわせて販売している。
毎年、参加工場の紹介を中心としたブックレットを無料配布してきた。一度、300円で販売したこともあり、印刷にかかる経費は大きな負担になっている。一方でライトな来訪者は物見遊山的なライト感覚な人と、より深く燕三条を知ろうというコアな人に二極化している。
人気のある工場はすでにさばききれないほど来訪者があり、拡大路線の限界が見えるなかで、近年はコアなファンによりニッチでディープな情報を届けることに注力しているといった流れから書籍というアイデアが生まれた。
ただ、参加企業のマップ、見学や体験の時間を表で示したA3判8ページのマップフライヤーを無料配布し、各企業の紹介はホームページで確認できるので、工場を回るのに困ることはない。
ブックレットは約1万部を作成したが、オフィシャルブックは初版3,000冊を作成し、これまで東京で100冊ほど売れた。2,000円の販売価格は原価割れ。売れば売るほど赤字なので増刷は難しそうだ。
ことしの昨年の109拠点を上回る113拠点が参加する。内訳は製品を生み出す「KOUBA(工場)」90、農業に取り組む「KOUBA(耕場)」11、地元の産品にふれて購入できる「KOUBA(購場)」12。市町村別では三条市71、燕市35、加茂市5、田上町1で、参加経験は継続97、新規13、復活3となっている。昨年は前年をわずかに上回り過去最多の53,345 人が来場した。
オフィシャルツアーやレセプションはこれまで通り企画し、人気のオフィシャルツアーはすでに定員に達したコースもある。10月4日から6日までことしも三条ものづくり学校でオフィシャルイベント「産地の祭典」を開き、日本各地で行われている8つの工場見学イベントが出展し、各産地の展示、産品の販売、ワークショップ、トーク、ライブイベントなどを行う。
工場の祭典実行委員会の実行委員長の有限会社ストカ(三条市北潟)次長・斎藤和也さん(32)、福実行委員長の株式会社近藤製作所(三条市猪子場新田)・近藤孝彦さん(38)、事務局の株式会社玉川堂(燕市中央通り2)番頭・山田立さん(46)が記者会見した。
初めて実行委員長に就いた斎藤さんは、参加工場をすべてを訪問しようと心に決め、この日までに残りは8社となった。その張り切りように周囲は体を壊すのでは心配したほどだが、疲れたようすもなく元気に記者会見を迎えた。
「自走可能な形を目指していかなければならない。それぞれの企業が工場の祭典で得たものを自社の成長のために持ち帰ってほしい」と斎藤さん。昨年から地域別に9つのエリアに分けてエリア長を設けたが、ことしは昨年以上にエリア内での交流が活発になった。「ただ工場の祭典に出たというだけでなく、企業同士のつながりからいろんなことを学んでほしい」と話していた。
この日は工場の祭典までちょうど1カ月前。夜は参加各社が参加して最後の第4回報告会が開かれ、工場の祭典の7つ道具とも言えるピンクストライプのTシャツや段ボール箱、ピンク色のテープ、そしてオフィシャルブックなどを持ち帰った。
ことしは学びをテーマに報告会では毎回、セミナーを開いた。最終回のこの日は明海大学ホスピタリティ・ツーリズム総合研究所の阿部佳所長が「お客様の気持ちを読み解く−燕三条のファンづくりのために」をテーマに講演した。
工場の祭典のプロデューサー、株式会社メソッド代表取締役の山田遊さんは、阿部さんが「予想した以上に楽しかったと思って帰ってもらうこと」、「思い込みはホスピタリティの最大の敵」、「本当は何がしたいかから外れないように」、「訪問した工場でその人の工場の祭典が決まる」などと話したのを受けて、「工場の祭典は工場の職人の皆さんが主役だとずって言い続けてきたが、皆さんとの出会いで来た人の燕三条の印象がすべて変わり、決まる。皆さんが主役であり、それぞれが燕三条そのもの」と話した。
昨年から任意の保険をかけており、斎藤実行委員長は「これまで事故がなかったのは運が良かっただけかもしれない」と、斎藤さんは安全確保に努めるようあらためて気を引き締めた。山田遊さんは、ひとつの会社で起きた外国人労働者の劣悪な労働環境の問題が産地全体のイメージを著しく傷つけた事例を話し、「安全第一、その次はお客さんに喜んで帰ってもらう。この2つを皆さんも心に刻んでほしい」と求めてことしの工場の祭典の成功を願った。