新潟県燕市分水地区に生まれた創作太鼓「分水太鼓」(小林常夫会長・会員22人)の発足30周年記念公演「五鬼元気コンサート」が10月27日、燕市分水公民館で開かれ、太鼓芸能集団「鼓童」の藤本夫妻の客演もあり、楽しませてくれるパフォーマンスに会場いっぱいの約250人は大満足だった。
分水太鼓の5歳から88歳までのメンバー22人全員が出演。分水地区には、この地に生まれたと伝わる酒呑童子の伝説や東洋一とも言われた大工事によって完成した大河津分水路をモチーフにした『酒呑童子』や5つの鬼面が登場する『鬼面繚乱』、大河津分水を表現する『分水勇み打ち』など8曲を演奏。終演後にもロビーで『お見送り太鼓』を演奏して来場者を見送った。
5年の節目ごとに記念公演を行っているが、30周年の目玉はふたりとも鼓童の名誉団員の藤本吉利さん、容子さん夫妻の約30分間におよぶステージ。日ごろから2人で「唄と太鼓の二人行脚」に取り組んでいる。藤本夫妻をめあてに来場した人もあり、2人の圧倒的な存在感のあるパフォーマンスが観客の心をつかみ、自然と拍手がわくなど盛り上がった。
酒呑童子は京都の丹波国大江山に住んだと伝わる。2014年に燕市分水地区で開かれた毎年恒例の酒呑童子行列に京都府福知山市大江の太鼓が参加したが、予定した福知山市の甲冑(かっちゅう)隊は、その年の夏の水害で福知山市が大きな被害に見舞われて鬼の着ぐるみだけ参加した。
翌15年、分水太鼓は逆に福知山市で開かれた第34回大江山酒呑童子祭りに参加した。福知山市のとなりの京丹波町、旧和知町出身の藤本吉利さんがその演奏を聞きにきてくれたのがきっかけで今回の客演につながった。
分水太鼓が演奏した『酒呑童子』は分水太鼓のメーン曲で、幼少の外道丸が酒呑童子に変身し、勇壮に太鼓をたたく。一方で藤本吉利さんが演奏した出身地で伝承される『和知太鼓』は、酒呑童子の征伐に向かう源頼光の武運長久を願って兵士を鼓舞したのが起源とされる。それぞれの真逆の立場から生まれた太鼓だが、幕あいで分水太鼓側から藤本吉利さんに両者が仲良くなるような曲をつくってほしいと頼むと会場を大きな拍手が響き、藤本さんも笑顔でうなづいていた。
福知山は昨年も豪雨水害が発生し、たびたび水害に苦しめられている。一方、先の台風19号による豪雨は各地に記録的な被害をもたらしたが、分水地区は大河津分水が計画高水位を越えながらも氾濫せずに守り切ったことから会場では被災地への募金も行った。
感動で目を潤ませて会場をあとにする人も多く、長岡市の越路地区から訪れた夫婦は「すばらしかったです。力強さと本当に良かった。鼓童もすごかったです」と興奮気味に話していた。