新潟県加茂市に本部を置く書道教室「下田(しもだ)書道会」は、学問の神とされる菅原道真の命日の2月25日、初めて天神講を行い、参加した17人の小学校低学年の生徒は、書道の腕が上がることを願って習字を練習した。
下田書道会は開設から50年以上になる。初代の下田志水さんが2年前に97歳で亡くなった。ことしに入って志水さんの遺品を整理していたところ、菅原道真が描かれた掛け軸が見つかった。
道真は学問にとどまらず、和歌や書道にもたけたと伝わる。天神講はその道真にちなみ、道真の命日に道真の掛け軸を飾って学業成就や合格を祈願する風習で、今も各地で行われる。遺品の掛け軸は古いものでなく、天神講に使われたものを譲り受けたと思われる。
加茂市には天神講の風習は残っていないが、掛け軸が見つかったのがきっかけで、子どもたちの成長を願い、加茂市でも天神講が根付くことを願って初めて天神講を企画した。下田書道会は加茂市、新潟市、見附市に合わせて7教室あり、本部教室の「幸町教室」に隣接する自宅で行った。
床の間に道真の掛け軸を下げ、志水さんの孫に当たる下田彩水(さいすい)さんとその母の下田湲水(えんすい)さんが天神講の意味を子どもたちに話してから「永」の字や、つけ、はね、とめなどの基本を繰り返し練習した。床の間に道真の掛け軸を下げ、燕市で作られている金花糖の天神講菓子を供えたほか、彩水さんが「菅原道真」、「天神講」と大書した書を飾った。
練習のあと、天神講の生菓子や粉菓子をみんなで少しずつ食べ、彩水さんが「天神様」と書いた字句をプリントした丸い特製アイシングクッキーを土産にした。
加茂市の藤田明美市長が激励に訪れた。藤田市長も小学校4年生まで下田書道会の須田教室に通ったOG。自分の名前を色紙に、「永」の字を半紙に書き、腕前を披露してくれた。
藤田市長は子どもたちに、なかなか進級できずに小学校4年生で書道をやめてしまったことを後悔したことを話した。昨年まで塾の講師をしていたが「勉強でものびない時を頑張って乗り越えると、すごくのびるときが来る」と、簡単にあきらめないよう求めた。さらに「ちょっとした毎日の積み重ね、基本が大事」と言い、「文字を書くときに気持ちを込めると見た人に伝わると思う。気持ちを込めてこれからもていねいに字を書いていってほしい」と願った。
生徒の石川小学校3年伊丹理紗さんは、「毎日と違う場所だから、そんなに慣れてはいないけど、ちゃんと書けてよかったし、加茂市長が来てびっくりしてうれしかった」とにこにこだった。
彩水さんは「生徒もいつもより、いい緊張感で書けたんじゃないかと思う。ふだん教室内で教えているより、みんなが真剣に聞いているのがわかり、身になる時間でした。市長さんからいい話も聞け、わたしも勉強になったし、子どもたちも今、気づかなくても何年後かにその言葉を思い出し、役に立つときがあると思う」と喜び、来年以降も天神講を続けることにしていた。