ことしの盆は新潟県三条市で市街地にサルが現れ、3日間にわたる大捕物が繰り広げられた。そのサルが出てきたと思われる三条市の山手、下田地区では年々、田畑の作物を食い荒らすサルが活動範囲を広げ、食害のために耕作を放棄して下田を離れる農家の人もあり、サルに人が追われる深刻な事態にもなっている。
「10年、20年前は、サルは奥のダムのあたりまでしかいなかったのに、どんどん人の住んでいる所に下りてきている」と話すのは、新屋地内で「山菜農園きむら」も営む専業農家の木村正樹さん(46)だ。
下田地区のサルのグループは10年前でさえ12グループあると聞いているが、今はそれどころではないと言う。笠堀ダムから五百川へ来て、院内、鹿熊、中浦、新屋と下へ下へと活動範囲を広げ、ことしは曲谷にも出没している。
食害を防ごうと農家は補助を受けて電気柵の対策を進めているが、木村さんに言わせれば「もろ刃の剣」。電気柵が設置された畑にサルは入らなくなったが、農作物を求めて電気柵が設置されていない山の下へ。そこも電気柵を設置したらさらに下へと、人里への移動を加速させる悪循環も生んでいる。
電気柵を克服するサルもいる。電線にふれない小さなサルを電気柵の中に入れ、畑のカボチャを電気柵の中から外へ転がして奪い取る。電線を木の棒で持ち上げて中へ入る。電気柵の電気が流れるのは最初の一瞬なので、それを我慢して中へ入るといった作戦を講じる。
農作物の味を占めたサルは、山の実では満足できなくなる。栄養価の高い農作物を食べたサルは繁殖力も高くなり、勢力を拡大している。
コメが収穫期を迎えると、サルのグループが田んぼに入ってイネをしゃぶるようにして食べている。車や人が近づくと田んぼから退散するがすぐに戻って食べ放題だ。さらに農舎へ忍び込み、収穫したものをそっくりサルに盗まれることもあり、やりたい放題だ。
サルに限らずイノシシやクマはもちろん、ニホンカモシカの食害も出始めている。「サルのために作物を作ってるんじゃない」と木村さんは声を荒らげる。「耕作放棄してやめる人が増えている。先祖代々の田畑があるから下田に暮らしているのに、農業ができないなら市街地へ引っ越すのも仕方ない」と言い、「5年後、10年後も農業を続けていられるかどうか」と危機感を募らせる。
サルが人里へ下りてくるようになった原因は、山が手入れされなくなって里山との境界がなくなったという説もあるが、はっきりはわからない。サルの勢力拡大を押しとどめる決定的な手段はなく、木村さんは「この苦しみはここに住んでいる人しかわからない」と天を仰いでる。