新潟県三条市の国定勇人市長(48)は9月25日の9月定例会本会議最終日で、退任のあいさつを行った。議場の傍聴席には初めて国定市長の妻、律子さん(49)の姿があった。律子さんは市長就任以来14年間、議場に入ったこともなければ、市役所へもできるだけ行かないようにしてきた。国定市長にとって最後の本会議が、律子さんにとって議場で見る最初で最後の夫の姿となった。
国定市長の辞職の時期は、報道で知るのかと思っていた。「私にもなかなかいつ辞めるって言わないから、言わないまま辞めてくんだなと思ってた」と律子さんは笑う。もちろん、これまで議場へ行かなかったのは考えがあったから。市役所へ行って顔を覚えられたり、夫の職場に顔を出したりする妻は「私的にはタイプじゃない」。
市長の妻というつらさがある。律子さんにとって夫であり、一市民の立場では市長でもある。国定市長の施策が自身の生活に影響することがある。「そうすると生活してる時に、いろいろな不満も出てくる。市民として同じように、なんでこうなってんのと思うこともある。それを家で言ってしまったりすると、ますます悪い関係になる」と、市政に対する不満は家庭ではふれないようにした。
本会議の見学は国定市長に「来てほしくないオーラがあった」と言う。これまで一度も議場に足を踏み入れなかったが、退任あいさつの前日朝になってなぜか「最後の議会、行った方がいいんじゃないかと、ふとよぎった」。「行った方がもしかして夫婦の関係としてもね」とも。国定市長に嫌だと言われれば行かないし、来なくていいと断られると踏んでいた。夜になって「最後の議会だから私、行ってもいいかなと言ったら、ありがとうって言われた」。律子さんにとっては意外な答えが返ってきた。
当日の朝もあらためて行っていいか確認すると、「あー、としか言わないんだけど、うれしそうっていうか、私が来るっていうのを自分のなかで咀嚼(そしゃく)してた」。あとで届いた国定市長からのメールには、議場は市役所5階だと案内まで送ってくれていた。
律子さんが先に傍聴席に座り、あとから国定市長が議場に入ってきた。「でもね、入ったときなんとなく私がいることを認識して、一気に緊張した感じがした。緊張させちゃったと思って」と少し申し訳なく思った。「でも行ってよかった。知らなかったから本当に。こういう仕事してたんだなと思って」。
「14年間、お世話になった市役所にお礼の気持ちもあって、うちの主人が大変お世話になりましたって言う気持ちもあって」と言いつつ、「行って良かった。ひどい奥さんだと思われているんじゃないかと思ってた」と笑った。