新潟県三条市で今春、開学した三条市立大学の初めての入学式が14日行われ、一期生82人が真新しいキャンパスで大学生活をスタートした。
入学生はすべてダークスーツで参列。式辞でアハメド・シャハリアル学長は式辞で、海外では三条市より小さなまちで世界に名だたる企業が立地していることを紹介し、「わたしは、この小さなまちから高度なものづくりの教育と研究を通じて、世界トップレベルの大学を築き上げていく」と旗印を掲げた。
バングラデシュに生まれ、軍の養成学校で司令官から「Gentleman Cadet」、「賢く強い士官になるにはまずは紳士であれ」と言われ、留学した東京電機大学の初代学長、丹羽保次郎氏の「技術は人なり」と言う言葉が「Gentleman Cadet」と一致し、「良い技術は良い人からしか生まれないと確信している」。
「本学で本質的なものを見極め、必要とする力を養い、身につけることによって、イノベーションを起こし、新たな技術を創り続けていくプロセスが重要」で、「皆さんが、誇りを持ち、希望を持って学業に励むことを祈念する」と述べた。
来賓祝辞で滝沢亮三条市長は「失敗を恐れず挑戦し続ける高い志をもって皆さんの目の前に広がる真っ白なキャンバスに絵を描いてください。私たちは皆さんが挑戦できるフィールドを皆さんのためにもっともっとつくっていく。三条市立大学での大学生活を通じて皆さんが限りない未来に向かって大きく大きく成長されることを心から祈念する」。
入学生宣誓では石川県津幡町出身で金沢市・金沢桜丘高校卒業の岸大河さん(18)が「三条市立大学の歴史や伝統をつくり、わたしたちが卒業するころには三条市立大学を卒業したという誇りと実績をもてるよう精進していく。そして皆さまにも誇っていただけるような人間になれるよう努力を重ねていくことを宣誓する」と述べた。
岸さんは三条市立大学を志願した理由について「先生に勧められ、最先端の技術を学べるとと思った」、「1期生だけど後輩の手本になるように頑張る」と話していた。
三条市立大学は、三条市初の4年制大学で、工学部技術・経営工学科だけの単科大学で定員80人。推薦を含めて815人の志願があり、推薦枠を8人のところ10人を合格としたため、82人を合格とし、入学した。入学生の確保が心配されることもあったが、ふたを開けてみれば競争倍率は約10倍にもなった。
入学生の出身地は県内35人、県外47人で、男子75人、女子7人の内訳。5日から13日までオリエンテーションをすませており、15日から本格的に授業がスタートする。アハメド・シャハリアル学長の式辞の全文は次の通り。
式辞
新入生の皆さん、ご入学、誠におめでとうございます。
昨年から続く新型コロナウイルス感染症の影響による不安定な社会情勢の中、皆さんは自分を見失うことなく目標に向かって努力され、今日の日を迎えられました。これまで、皆さんが一生懸命に取り組まれた努力に敬意を表するとともに、愛情を注ぎ、温かく支えてこられたご家族を始め、関係者の皆様にお祝いを申し上げます。
皆さんは、自動車メーカーのフェラーリを知っていますか。フェラーリはイタリアの人口約一万七千人のマラネッロという都市に立地しています。スポーツブランドのアディダスを知っていますか。アディダスはドイツの人口約二万三千人のヘルツォーゲンアウラハという都市に、また、衣料品ブランドであるシャネルはフランスの人口約六万人のヌイイ・シュル・セーヌという都市に本拠地を構えています。三条市よりも人口規模の小さな都市に世界に名だたる企業が立地している例は、これ以外にも存在しています。
皆さんが入学した三条市立大学も、人口十万人に満たない地方都市にある大学です。三条市を始めとするこの地域は、様々な優れた技術を有する日本屈指の「人と企業」の集積地です。本学は、「新たな発想を生み出す鍵は、蓄積された経験の中に」を基本理念に、地域全体をキャンパスとして、この地に蓄積された経験から学び、新たな「価値」を創造できる人材として「創造性豊かなテクノロジスト」を育成します。私は、この小さなまちから高度なものづくりの教育と研究を通じて、世界トップレベルの大学を築き上げてまいります。
私は、幼少期に母国バングラデシュで軍の養成学校に通っていたときに、司令官から”Gentleman Cadet”と言われました。「賢く強い士官になるにはまずは紳士であれ」という意味です。私は、その時は、この言葉の意味がよくわかりませんでした。Gentleman、紳士とは何なのでしょうか。
時が過ぎて、私は、日本に留学し、東京電機大学の博士課程で研究に没頭していました。そのときに母校の初代学長である丹羽保次郎氏の「技術は人なり」という言葉に巡りあいました。丹羽氏は、日本が誇る大発明家で、あのFAXを発明した人です。「立派な研究者・技術者になるには、実践的な知識・ 技術と幅広い教養を併せ持つとともに、人としても立派でなければならない」という意味です。ここで、幼少期に聞いて、わからないながらもずっと気にかかっていた”Gentleman Cadet”がぴたりと一致しました。その後の私の技術者の概念が定まった瞬間でした。私は、良い技術は良い人からしか生まれないと確信しています。
ここでの四年間の学びや出会いを通じて人を敬う心を持ってもらいたいと思っています。それが、イノベーションの根幹であり、本学の教育と相まって、皆さんは「技術は人なり」を体現した創造性豊かなテクノロジストになれると信じています。
今、私たちを取り巻く社会は、情報通信技術の発展に伴い、目まぐるしいスピードで変化しています。さらに、地球規模の課題として環境に配慮した持続可能な社会づくりが求められています。皆さんが社会に出て第一線で活躍している十年、二十年後の世界は一体どのようになっているのでしょうか。その頃には、今の最先端の技術は当たり前となり、誰も想像のつかない世界が広がっていることでしょう。皆さんは、その時代を展望し、生き抜く力が求められます。だからこそ、本学で本質的なものを見極め、必要とする力を養い、身につけることによって、イノベーションを起こし、新たな技術を創り続けていくプロセスが重要となります。
最後に、三条市立大学の一期生であり、本学の伝統の一ページ目を飾る皆さんが、誇りを持ち、希望を持って学業に励むことを祈念して、式辞といたします。
令和三年四月十四日
三条市立大学 学長
アハメド シャハリアル