新潟県三条市下田地区の山野には、三条市の花であるユリの仲間、ヒメサユリが群生し、とくに森町地内の高城城址を「ヒメサユリの小径(こみち)」として整備している。ことしも間もなく満開を迎えるというのに、およそ7割ものヒメサユリの花やつぼみがなくなっているのがわかった。原因は不明。この謎の現象に関係者は「ヒメサユリを見に来てくれとは言えない状況」と困惑している。
ヒメサユリは主に東北地方南部から新潟県の山手に自生する。5月中旬から6月上旬にかけてピンク色の清らかな花を開く。とくに高城のヒメサユリは色が淡いとも言われる。
近年、三条市はヒメサユリの小径の登山道を整備し、開花期にあわせた越後三条・高城ヒメサユリ祭りの開催などの取り組みが功を奏し、高山植物やトレッキングの愛好者の人気を集め、県外から見物に訪れる人も増えている。
ところが、ことしは開花期が迫り、なぜかつぼみが圧倒的に少ないことがわかった。つぼみがつかなかったわけではなく、つぼみが根元がもぎ取られているように見える。
この異常事態に三条市の観光を推進する営業戦略室や園芸に詳しい職員、ヒメサユリ祭り実行委員会の熊倉芳和会長、地元の植物写真家の小川もりとさんらで15日、現地調査に入った。
その結果、7割の花やつぼみがなくなっていることがわかった。ヒメサユリが群生するのは、登山道の中間地点あたりまで。中間地点に近づく「二の坂」まで花が少なく、その先から比較的、多く花を見ることができるが、咲いているヒメサユリの花は50本前後にとどまった。
インターネットでヒメサユリの花が大量に無くなる事例を調べたが、見つからなかった。仮に人が花を取るなら茎の部分から折ったり、根っこから引き抜くはずだが、花だけが付け根からもぎ取られたようにきれいになくなっている。
動物が食べたのなら茎や周辺にも荒らした跡があるはずだが、それもない。残る原因は虫で、怪しいとにらんでいるのがゾウムシ。体長2cmから4cmくらいで、口がゾウのように伸びているのがその名の由来だ。
ゾウムシはたくさんの種類が存在するが、そのなかに口で茎の中に産卵するゾウムシがいる。ゾウムシがつぼみの付け根に産卵し、卵が孵化(ふか)することで結果的につぼみや花が落ちるという仮説を最も有力視されている。実際に現地調査ではゾウムシを確認し、捕らえることができた。
原因の特定には至ってない。ゾウムシが犯人とは決めつけられないが、虫の可能性が高そうという結論になった。ゾウムシに限らず虫が原因なら種類を特定できなくても一般的な害虫駆除剤で効果があるはずで、来シーズンは害虫駆除の対策を検討している。
原因はさておき花の数は、例年の3分の1以下。強制ではないが、登山道入り口には1人200円の整備協力金を求めるポストも設置している。
週末の22日、23日ごろがいちばんの見ごろと予想されるが、本来のヒメサユリの小径の姿にはほど遠く、見学してほしいと呼びかける状況にない。逆に「現状を踏まえて登ってほしい」と、がっかりしないよう周知し、登り口にも花が少ないことを伝えるお知らせを掲示した。
今後はヒメサユリが自生するほかの地域に同じような事例がないか問い合わせて原因究明を図るとともに、原因に関する情報提供も待っている。心当たりのある人は三条市の営業戦略室観光係(電話:0256-34-5605)へ。