加茂体操クラブに所属する柏木寅冶(かしわぎ ともや)さん(24)は、このほどドイツとフランスの体操のプロチームに入団することが正式に決まった。国内の体操選手が海外でプロ選手として活躍するのはおそらく初めて。パイオニアであると同時に、これまで実業団へ進む道しかなかった国内の体操選手に海外でプロ選手として活躍するという新しい選択肢をもたらし、日本の体操界に風穴を開ける挑戦として注目される。
ドイツのハイデルベルクを拠点とするチーム「KTGHeidelberg」、さらにフランスのリヨンを拠点とする「ConventionGymnique de Lyon」の入団が決まった。「KTG Heidelberg」はブンデスリーガに所属するチームで、9月から12月までリーグ戦が行われる。
「ConventionGymnique de Lyon」は6月に行われるフランスのチャンピオンシップに参戦するので、柏木選手の公式戦デビューはこちらが先になりそうだ。体操のプロチームはこのほかにイタリアにあり、イタリアのチームへの入団も交渉中。成功すれば3カ国のチームに所属して各地を転戦することになる。愛称は「とらじ」。海外では「TRAZI」と書いて選手登録する考えだ。
神奈川県大和市出身。3歳のころから体操をはじめ、高校で体操の名門、千葉県・市立船橋高校、早稲田大学スポーツ科学部に進んだ。インターハイでは跳馬で5位となり、インカレ1部では早大体操競技部で団体4位となった。
2018年はU21日本代表に選出され、19年は米・スタンフォード大学との対抗戦で団体優勝し、全日本個人総合選手権、全日本種目別選手跳馬に出場している。
大学を卒業していったんは就職。働きながら地元の体操クラブに通っているときにドイツにプロリーグがあることを知った。さらに加茂市・新潟経営大学体操競技部の森赳人監督がドイツのチームとのパイプがあることを知り、仕事をやめて2021年2月に加茂市に移住した。
加茂市の日帰り温泉「美人の湯」で働きながら加茂市体操トレーニングセンターで毎夜5時間の練習。加茂体操クラブでジュニアの指導にもあたる。
14日、森監督とともに加茂市役所を訪問し、藤田明美市長にプロ入りを報告した。念願の入団が決まり、「うれしかったのもあるし、やっとここからがスタートだなって感じた」と藤田市長に話した。
「いろんな気持ちがあるが、不安な方が大きい。ひとりで行くので大丈夫かとか。体操のことより私生活の言語の不安が大きい」が、ドイツのチームの監督が日本人とドイツ人のハーフで日本語を話すことができ、監督の家に滞在させてもらえるのは安心材料だ。
自分のことだけでなく、日本の体操界への波及効果に期待する。「あっちで活躍するのはもちろんですが、こういう道があるという情報をいろいろ発信して、いろんな人に知ってもらってる。成績がどうのこうのというより、そういう道あることを広めたいという方が大きい」。
日本は常に五輪の体操でメダル争いにからむ強豪国。森監督によると、日本の体操選手に対するリスペクトは高く、プロ入りを希望すれば引く手あまたで、「柏木選手は競技力が高いので全然、海外でも戦える。ドイツやフランスでやりたい日本人が選手がいればすぐに手を上げてもらえる」と言い切る。
加茂市については「いちばん思ったのは加茂の人はあったかい」で、最初は友だちもいなかったが、今となっては「いざ離れると思うとなると寂しい」とも。「新しい道で全力で体操を頑張る。体操に限らず、いろんな自分の仕事とかスポーツとか自分の好きなことをしてチャレンジしてほしい」とメッセージも送った。
藤田市長は「ドイツに行っても加茂からずっと応援している。日本の体操選手のパイオニアとして頑張ってほしい」とエールを送った。神奈川の実家へ寄って3月20日に渡独する。