俳優の渡辺裕之さんが3日に神奈川県の自宅で亡くなっていたことが5日、わかった。66歳だった。仕事を通じてプライベートでも渡辺さんと親しかった能有限会社永塚製作所(新潟県三条市塚野目6)の社長、能勢直征さん(54)はFacebookページで渡辺さんの突然の死に「愕然としてます」と投稿した。
投稿では、能勢さんの母にも渡辺さんは優しくしてくれ、母から能勢さんに大泣きで電話があったと書いた。コロナも落ち着いてきて渡辺さんに会いに行こうと思っていた。
また、大御所俳優に「俳優は夢を与える仕事だからごみ拾いはあまり感心しない」と言われた渡辺さんが「はい。私は夢拾いをしておりますので」と返したエピソードも紹介した。
5日は渡辺さんの死を知ってからぼうぜんとして何も手につかなかった。しかし能勢さんが渡辺さんと親しかったことを知る先輩や仲間から能勢さんの心情を気遣う連絡が相次いだことから、Facebookに今の気持ちを投稿した。
渡辺さんとは10年来の付き合いになる。永塚製作所は、日本スポーツGOMI拾い連盟の公認トングとなった「マジップ(MAGIP)」の製造で知られる。
渡辺さんは台本を覚えるときにスロージョギングしながらごみを拾っていたが、金属製のトングは使いにくかった。使いやすいトングをネットで探して「マジップ」を見つけてくれ、テレビ番組で紹介してくれたのが始まりで能勢さんと知り合った。
そのうちに家族ぐるみで付き合うようになり、2020年公開の映画「瞽女GOZE」に出演した渡辺さんは撮影の時に燕三条地域に足を運んでくれた。
「本当に兄貴的な存在で、いろんなことを教えてもらった。ストイックで、日本は美しくなければいけないといった国家観ももっていた」と言い、「落ち着いたら線香をあげさせてもらいたい」と話している。
メモ
訃報に声を上げて驚いた。40年ほど前、東京での学生時代にさかのぼる。六本木で開かれた音楽関係の知り合いの結婚式の二次会に出席した。そのサプライズのゲストが渡辺さんだった。
モデル然とした白人女性と一緒に現れた。端正でハーフのように彫りが深い精悍な顔立ち。すらっとして肩幅が広い逆三角形のスタイルと、まるで彫刻のようなパーフェクトなルックスだった。
渡辺さんはゲストとしてドラムをたたいた。俳優の演奏だからきっとなんちゃってドラマーなんだろうと高をくくっていたが、いざ演奏が始まるとプロレベルでまたびっくり。のちに俳優業のかたわらジャズドラマーとして演奏活動していたことを知った。天は二物も三物も与えたのかと、うらやましいとすら思わず見上げる対象となった。
ネットのない時代。ポジションが似ている渡辺謙さんと混同していることもあったが一度、目にしたというだけだが、どこか親近感を抱いていただけに、訃報に対する驚きは大きかった。
いつか燕三条で渡辺さんのライブを実現したいと能勢さんにも話していたが、かなえることができなかったのが悔やまれる。