新潟県三条市下田地区の文字通りの森にある民間美術館「下田の森の美術館」がオープンから16年目のことし12月で閉館することになった。土地と建物は売却予定で、その名の通り下田の森を背景にした小さなオンリーワンの美術館の閉館を惜しむ声は多い。
美術館は文字通り下田の森を背景にした約600坪もの敷地に築40年近い洋風の建物が建つ。25席ほどあるカフェを併設する。下田は雪深く、積雪期を除く4月から12月までの季節営業。1、2週間のサイクルで企画展を開き、自然の緑に囲まれた恵まれた環境で来館者を集めてきた。
現役時代に会社の同僚だった市内に住む館長の関勝徳さん(69)とマネジャーの土田友江さん(74)が共同経営する美術館。鉄骨2階建ての中古住宅を2005年に購入し、2年がかりでリフォームして07年4月にオープンした。
土田さんが師事した山口県の画家、貞永マミさんから作品の譲渡の話があったのがきっかけで関さんに相談。知人にこの建物を紹介され、2人で資金を出し合って美術館に生まれ変わらせた。
当初は貞永さんの作品を常設展示したが、5年ほどたってから企画展のギャラリーに変え、それまで400円だった入館料を無料にした。それだけでは経営が成り立たないのでカフェを始めた。
順調に美術館のファンを獲得し、地域で絵画、写真、陶芸、パッチワークなどを手掛ける人たちの身近な発表の場として定着。教室の会場にも貸している。
経営は厳しかったが成り立っていた。まだ続けることはできるが、年齢の不安が強くなった。関さんは来年で70歳の古希。「5年前から70歳までと土田さんと話し、2、3年前から周囲にもそう言ってきた。けじめをつけないとだらだら続けてしまうから」と関さんは区切りをつけることにした。
体調を崩したこともあるが、このまま続けてどちらか先に亡くなると相続などで残された家族に面倒をかけるかもしれない。そうなるくらいなら2人が元気なうちに清算しようと閉館を決めた。
「16年もやってきたから閉館には寂しさもあるし、惜しいという気持ちもある。やっとここまで知名度も上がったし」と関さん。敷地と建物は売却しようと買い手を探しているが、まだ見つかっていない。
「本当は買った人が同じようにカフェギャラリーを続けてくれるのがいちばんだけど、買ってくれるならどういう使い方をしてくれても構わない」と割り切っている。
美術館を運営しているうちは、何をしているときもどこか美術館のことが頭から離れない。「束縛から放たれたい」と笑い、「ここでピリオドを打って、これから自由にあちこち旅行に行ってみたい」と新しい人生のステージを楽しみにしている。
5月31日(火)までは地元下田地区の洋画家の個展「渡邉美保子展」を開いている。問い合わせは「下田の森の美術館」(電話:0256-46-5576)。