北京五輪スノーボード男子ハーフパイプで日本勢初の金メダルに輝いた新潟県村上市出身の平野歩夢選手(23)に10日、新潟県から贈られた県民栄誉賞特別賞のトロフィーを製作したのは、燕市の金工作家の鍛金師、渡邉和也さん(43)。「作りたいと思っても作れないものなので、ありがたい機会をいただいた」と感謝している。
高校の初めから大学を卒業後もしばらくの間、スノーボードをやっていた。県からトロフィーの発注を受け、「ふつうに平野選手のいちファンとして即答でやりますと」。
燕市美術展覧会の市展賞のトロフィーのほか、レリーフの記念の盾も制作したことがある。イメージを表現しやすい立体を制作しようと考えた。「ハーフパイプは力をため、板のしなりも使って平野選手は誰よりも高く跳ぶ。“収縮”と“発散”のイメージをシンプルな造形にした」。
素材は鍛金によく使う銅ではなく、渋さの中にも華やかさのある真ちゅうを選択。厚さ2ミリの真ちゅうの板を2枚つくってロウ付けで張り合わせた。表面には施した鎚目を黒くいぶして強調。高さを約35センチ、高級木材のウエンジで作った台座を含めると40センチほどになる。ト音記号に似た曲線を描くダイナミックで伸びやかな作品に仕上がった。
三条市出身で長岡造形大で鍛金を学び、燕市・玉川堂で5年間、働いて独立し、鍛工舎を設立。個展、オーダー制作を中心に活動している。2017年には全国47都道府県代表1人の作家を収録した「LEXUS NEW TAKUMI PROJECT」で新潟県代表に選ばれた。
2020年には坂本龍一の活動をまとめた7枚のアナログレコードを収録して300点が完全限定生産されたアートボックス「2020S」に納められた坂本龍一が絵付けした陶器の陶片を飾る台の制作も任された。活躍のフィールドは国内に収まらなくなりつつある。
今回の6月いっぱいでの納品を目指していたが、急に予定が早まってなんとか間に合わせた。「華奢(きゃしゃ)に見えるけど、意外と骨が折れた。限られた条件もあったが、それなりに形はとれたんじゃないかと思う。あとは見る人がどう感じてくれるか」。
「まさか自分の住む県からエクストリーム系のスポーツのチャンピンが生まれるとは思わなかった。世界のトップに君臨し続けてほしい。ハーフパイプは個性が出る競技。ずっと見る人を魅了し続けてほしい」と息の長い活躍を願っている。