新潟県警燕署(清水文宏署長)は27日、タクシーに乗車した特殊詐欺の受け子を不審に思ったタクシー運転手が会社に連絡し、会社が警察に通報して容疑者逮捕に至ったタクシー会社と運転手に署長感謝状を贈って協力に感謝した。
署長感謝状を受けたのは中越交通株式会社(川本高志社長・本社:三条市北入蔵1)三条営業所(本間祐所長・同所)と、キャリア15年の運転手・齋藤克巳さん(62)=見附市=。本間所長と齋藤さんが燕署を訪れ、清水署長から感謝状を受け取った。
5月25日、燕市の70歳代の女性が特殊詐欺の被害に遭い、100万円をだまし取られた。孫を装って「会社の書類を間違ったところに郵送した。契約が破棄になると800万円の損害が出る。得意先の社長が金を都合してくれるが、どうしても100万円足りないので金を用意してくれないか。社長のおいが金を取りに行く」と電話があり、そのうそを信じた女性は金を取りに来た受け子に現金100万円を渡し、だまし取られた。
しかし燕署は中越交通からの通報を基に捜査し、翌26日、受け子の熊本市西区、アルバイト少年(17)を詐欺の疑いで逮捕した。
齋藤さんは午後9時ごろ燕三条駅で容疑者の男を乗せた。男に分水方面へ向かうよう言われたが、「分水」を正しく「ぶんすい」ではなく「ふんすい」と発音した。料金が高くなると伝えたが、まったく気にせず、最終的に領収証も求められなかった。目的地に到着すると男はタクシーを待たせて15分ほどで戻った。
今度は西蒲区方面へ行くように言われたが、これも正しく「にしかんく」ではなく「にしうらく」と言った。地元に明るくないことがわかり、聞いたことのない方言を使っていた。
常にスマートフォンを見ていて誰かとやりとりしている感じがあった。西蒲区へ向かい始めると急に燕三条駅に向かうように言われ、Uターンした。それから5分とたたないうちに今度は弥彦へ行くように言われ、弥彦へ到着すると料金を受け取ってひと安心したが、清算が終わると、10分ぐらいで戻るのでまた別の場所へ行ってほしいと言われた。
さすがにおかしいと思い、車内に搭載している配車センターと通信している業務用タブレットで不審者緒が乗車していることを会社へ連絡した。すでに会社にも警察から怪しい人が乗車したら通報を求める要請が届いていた。
10分待ったが男は戻らず、さらに10分待っても戻らなかったため、会社へ連絡して現地を離れた。会社からの指示でその足で燕署へ寄り、経緯や男の特徴に関する情報を提供。翌日26日、逮捕されたことを知った。
受け子をタクシーに乗せたのは「やっぱり気持ち良くない」と齋藤さん。「会社でも私の動きはわかっているはずで、ちょっと怪しいなとチェックしていたようで、犯人逮捕につながってよかった」。
弥彦で男が戻るのを待つ時間は「割と閑静な住宅街で車も人もまったく通らないような状況だったので、ちょっと不安は不安だった」。「かねてからこういう犯罪とか、お年寄りが見当たらなくなったとか、そういう情報が警察からたびたびあるので逐一、チェックして、ちょっと怪しいのがあったら会社に連絡するとか、継続していきたい」と話した。
中越交通では、特殊詐欺の容疑者をタクシーに乗せて通報したのは今回が初めて。本間所長は、警察から高齢者の行方不明や不審者の情報が会社に届くと、朝の点呼や昼食時に乗務員に伝えている。齋藤さんについては「非常に立派な乗務員だと思う」と本間所長。「結果的にこういった犯人検挙につながったということで非常にうれしく思っている。乗務員に万が一、何かあったりとか危険なこともあるので、日々これからも防犯に取り組みたい」と話した。
清水署長は「犯人は逮捕される段階になると、どういう暴挙に出るかわからず、そういう意味では非常に勇気ある行動で大変、警察としては感謝している」と齋藤さんの判断、行動をたたえた。
詳しくは捜査中だが、犯人グループは集団で犯行に及び、携帯電話などでほかの犯人と連絡を取り合い、指示を受けてそれぞれの場所に行っていると思われる。「一般論としては単独犯というよりも、やっぱり集団で犯罪を行っていると考える。今回の事案も燕市内で被害が実際に発生している」、「今回、捕まえた容疑者は、現金を被害者から受け取って、それを何らかの方法で別な犯人グループの一味に現金を渡したものと考えられる」。
「新潟県内では日々、特殊詐欺事件が発生している。警察の力だけでは、なかなか犯人検挙に結びつけるのは大変だが、今回のように地元の地域の方、タクシー事業者さんなどの協力があれば、その分、犯人検挙に結びつくので、ぜひ今後も協力をお願いしたい」と協力に期待した。