2020年から漫画誌『ハルタ』(KADOKAWA刊)で連載されている新潟県燕市を舞台にした漫画『クプルムの花嫁』のデジタル複製原画などを展示する企画展「クプルムの花嫁のセカイ展」が3月3日から4月16日まで燕市産業史料館で開かれている。初日3日は著者の漫画家「namo(ナモ)」さんが来場し、一堂に展示された作品に感激していた。
作品は、燕市をメーン舞台に鎚起銅器職人の「 修(しゅう)」とその彼女「しいな」との婚約生活を描くラブコメディー。燕市のものづくりをはじめ周辺地域の産業やまち並みが詳しく描かれ、単行本は3巻が発行されている。
namoさんはデジタルで作品を描いており、そのデータを出力した原画を新潟県内で展示するのは初めて。約50ページ分の作品を出力して額に入れて展示している。
展示作品は、鎚起銅器を製造する創業200年余りの「玉川堂」をはじめ、ラーメン店「大むら支店」、老舗の「喫茶ロンドン」、燕三条地域の玄関口の「燕三条駅」、弥彦の「大鳥居」などとくに燕市や周辺を取材した作品を集めた。元玉川堂の鎚起銅器職人の細野五郎さんは実名入りで作品に登場。
あわせて漫画に登場するモノも展示。高度な技術「木目金」のシーンの作品と並べて人間国宝の玉川宣夫さんが製作した木目金の花瓶を展示しており、漫画とリアルを行ったり来たりして鑑賞を楽しめる。
会場を訪れた玉川堂の玉川基行社長(52)は、「鎚起銅器と漫画は結びつきのない分野だったが、漫画で見たという人が玉川堂に結構いらっしゃる。今回の展示で3月、4月は今でにない人たちが玉川堂へ来てくれるひとつのきっかけになってくれれば」と期待する。
ロンドンを経営する吉野昌英さん(72)、春江さん(70)夫婦は、「初めは漫画に出ていることを知らなくて、お客さんにおたく、本に出てますよって言われて、本を持って来ていただいて。驚きました。光栄なことで、ありがたい気持ちでいっぱい」と喜び、店に単行本も置いている。
著者のnamoさんは前日に来燕して初日は会場を訪れた。岡山県鏡野町出身。『月刊 ComicREX』(一迅社刊)で漫画家デビューし、代表作に『まどろみちゃんが行く。』(KADOKAWA刊)や『狼小年は今日も嘘を重ねる』(同)がある。
燕三条地域とも縁のある中川政七商店店(奈良県奈良市)の産地のサイトを担当から教えてもらい、地元に根差した作品を描いてみないかと勧められた。
めがねの産地で知られる福井県鯖江市か燕三条地域のどちらかを題材にしようと検討したら「玉川堂の絵力がものすごかった」とnamoさん。作業場のビジュアルにみせられ、物語にしたいと思った。
燕三条地域は「工場見学がしやすいのが何より」で、高級箸のマルナオやニッパー型つめ切りの諏訪田製作所も見学した。「オープンファクトリーって感じで、どうぞっていう体制がありがたかった」と言い、燕三条地域の環境が創作を後押ししてくれた。「漫画家は縦掘りしていかなくちゃいけないので、縦掘りがすごくありそうだなっていうのが魅力だった」とも。
3年半前の暑い日にロンドンに入り、たまたま立ち寄った燕市のファクトリーフロントで、燕市での取材のコーディネートなどで協力してもらると言われ、ここで作品を書こうと決めた。
燕市で職人を取材してみて「根底で思ってる思想が近いところがあり、話を聞いていると共感する部分もあって、自分のなかの引き出しと重ね合わせた」と、創作にも少なからず影響を与えた。
齋藤優介観光振興課主査も「そのnamoさんの思いが思いが伝わっているからこそ、職人さんも話してくれた。表現方法が違うが、つながっている」と分析。また、齋藤さんのリクエストに応えてnamoさんはその場でプロフィルが書かれたパネルにその場で「しいな」の絵を描くサービスまでしてくれた。
トークイベントを3月12日、26日、4月9日のいずれも日曜の午後2時から同史料館で株式会社MGNETの武田修美代表取締役と齋藤さんが対談し、4月9日だけはnamoさんも対談に加わる。
入館料はおとな400円、小・中・高校生100円、市内小中学生と付き添いの保護者1人はミュージアムパスポート持参で入館無料。問い合わせは燕市産業史料館(電話:0256-63-7666)。