新潟県三条市のふるさと納税の返礼品に、加工の難しいマグネシウムに職人の技を組み合わせた「極上杖(つえ)」が登場した。寄付金額はなんと220万円。開発に7年間を費やして地元の技術で作り上げた。市販の予定はなく、ふるさと納税でしか手に入らない至高の逸品だ。
この杖はグリップの形状で「燕三条極上杖 至高J字」と「燕三条極上杖 至高T字」がある。さらに模様の色も金と銀のどちらか選択でき、杖の長さは78〜90cmの範囲内で 1cm単位でオーダーできる。
素材のマグネシウムはアルミより軽く、鉄より強い。長さ85.5cmのJ字グリップで重さは約370グラム。空のペットボトル1本分より軽く、杖は使いたいが重いからとあきらめていた人も試したくなる軽さだ。
さらに杖の表面には、国の伝統的工芸品に指定されている三条仏壇の漆塗りや沈金を組み合わせたうえできり箱に納める。機能性と審美性を兼ね備える世界最高峰の杖が完成した。27日から楽天ふるさと納税、ふるさとチョイス、ふるなびの3サイトで寄付を受け付けている。
極上杖の開発は2016年にさかのぼる。三条市はこの年から数年間、グループワークを通した新商品開発、新事業創出を目指す講座「リアル開発ラボ」を開設した。その受講者のチームのひとつが極上杖を開発した。
チームのメンバーは、三条市内の機械部品の商社の梨本商店、マグネシウム加工を手がける田辺プレス、切削加工の渡明製作所、溶接業のアークリバーの4社。全国の企業で創造活動の支援や新規事業の開発をサポートする。
講師のシステム・インテグレーションの代表、多喜義彦さんがチームに課したテーマは「50万円の高級ステッキ」。梨本商店の梨本次郎社長と田辺プレスの田辺和夫さんは今までにない杖をマグネシウムで作ろうと考えた。
マグネシウムは軽くて振動が少なく、強度もある夢のような金属。反面、高温に熱すると発火して可燃性ガスが発生する危険性があり、加工が難しい。しかし田辺さんは2000年から研究を始め、何年もかけてプレス加工に成功。問題を克服していた。
さらに以前からのパートナー企業のアークリバーの川越英男さんも一緒になって開発を進めた。J字の持ち手のカーブは3人がかり。ひとりが温度計を持ち、ひとりがバーナーで金属を熱し、ひとりが力を加えて時間をかけて曲げていく。
本体の絶妙な形状は、渡明製作所と相談をしながら調整し、精度を上げた。ベーシックな杖ができたら、三条市の伝統工芸士山田仏壇・山田貴之さんが耐久性を高めるため、漆を4回、塗り重ね、金・銀の装飾を施した。最後に商品のきり箱に三条市の書家・佐藤瑞雲さんが商品名を書いて完成した。
量産ができないため、今のところ市販の予定はなく、ふるさとの納税の返礼品でしか手に入れることはできない。寄付を申し込んでから希望に合わせて受注生産するので、納期は約2カ月。