新潟県燕市吉田下町で創業してから130年以上になる老舗「うすいや食堂」が18日(月・祝)で閉店、廃業する。閉店が知られてから毎日、昼は満席が続き、地域に根を張った名店の閉店を惜しんでいる。
店主は3代目の塚原紀夫さん(73)。祖父が明治半ばに、うすいや食堂を創業した。祖父は福島県の「深川」という場所にあったうどん屋と思われる店で働いていた。
のれ分けしてもらい、移り住んだ理由はわからないが、今の場所で食堂を始めた。父はシベリア抑留されていたが、復員して祖父の後を継いだ。塚原さんは二十歳前から店に入り、もう裕に50年以上になった。
店は妻、長男、姉の身内4人で切り盛りし、店の向かいの奥さんにもパートで手伝ってもらう。「みんな体がゆーこときかねなった」と塚原さん。姉は78歳。「姉が去年からだめらいっや。なんとしてくれと頼んだから、うちのじいちゃん、ばあちゃんみてーに死ぬまで稼がせねろ。動かれるうちにやめるすけ」と答えた。
以来、閉店を惜しみ、うすいや食堂の味や店を記憶しよういう客が毎日、さばききれないほど訪れる。おかげで出前に対応できなくなっている。
地元でもラーメン店はまだ数多く残っているが「食堂」は少ない。うどん、ラーメン、丼物、定食、カレーライス、焼き肉、野菜いためとメニューは幅広い。うどんは今も手打ちにこだわっている。懐かしさだけでなく、今も味で多くの客をつかんでいる。
姉は小学校に通っているときから、昼休みに帰宅して店を手伝ったと言う。「いい思い出はいっぱいあって思い出さんね。切ねーこともあったし。忙がして音を上げたこともあったね」。店の中に思い出が詰まっている。
「お客さんも言うんだけど、閉店する店は暇で仕事がない食堂が多い。ここんちは違うんだと。きのうもおばあさんが涙流しながら花束を持ってきてくれてね。開店祝いならわかるけど…」とほろり。おばあさんは「これはね、お父さんにやるんじゃないよ。お姉さんとね、お母さんにやるんだっけね。お疲れさまでしたって」と話したと言う。
「長い間、ご苦労様でしたとお客さんが慰めてくれる」。塚原さんは最後の1日までふだん通りのペースで走り切る。