新潟県三条市のふるさと納税寄付額を15億円から50億円へ大きく飛躍させた立役者、三条市が公募してふるさと納税の戦略を立案、実行するCMO(チーフ マーケティング オフィサー)に採用した澤正史さん(43)=経済部主幹=は、来年3月末での退職する。退職後はそのまま三条で暮らし、三条でコンサルティングが中心の事業で起業しようと決意した。澤さんは「地方が変わらないと日本は変わらない。引き続き日本に貢献したい気持ちが強い」と志は高い。
同じ地場産業の集積地でありながら、ふるさと納税の実績でとなりの燕市に大きく水をあけられていた三条市。ふるさと納税の寄付を強化しようと2021年、CMOを全国公募した。
国内外から314人もの応募があったなかから採用されたのが澤さん。前職はNetflixエンターテインメントジャパンにで、それ以前はDAZN Japanやソニー・ピクチャーズエンタテインメントで働いた。
東京出身だが、母の実家は長岡市で祖母の出身は燕市。東京外語大ポルトガル語専攻卒業で、在学中にブラジルで1年間の留学経験もある。
大阪を除けば澤さんにとって初めての地方勤務。2021年10月に着任し、課せられた特命は、年間のふるさと納税寄付額25億円。21年度は着任から半年にもかかわらず前年度の2倍近い15億5千万円に。勝負の22年度は50億5千万円と実に目標の2倍を超える実績をあげ、三条市の取り組みや澤さん個人に対しても大きな注目が集まった。
当初はわざわざ外部人材を雇用してまでふるさと納税に取り組む必要があるのかといった批判的な声もあったが、結果がかき消した。それどころかもっと報酬を増やしてあげられないのかという声まで出るようになった。
市役所では、ふるさと納税だけにとどまらず、これまで大企業で働いた幅広い視野から、組織改革の手腕も買われた。ことし6月に発足した三条市役所組織改革プロジェクト「プロジェクト シンカ」で、上田副市長がチームの統括、澤さんは副統括に就いた。
最近では毎週のように職員向けのセミナーで講師も務めている。澤さんが伝えた仕事の進め方などは、いい意味で「このやり方をあるていどやった人たちはもう後戻りできなくなる。広がっていくと思う」と言い切る。
もっとも「公務員は優秀な人が多い」と言う。「どういう教育をしていくかが課題。もっと考えさせないと。20代に手続き業務をやり続けたら考えられなくなる」。次の時代を考える仕事こそ正職員がやっていかなければならない」
実績を重ねる一方で「もう三条市のために急激に役に立てるようなことはなくなった。チャレンジを続けていかなければと思っている」。秋には今年度末での退職を心に決めた。「どこの組織も最初、がーんとやってだんだんとやれることが少なくなっていく。今はそのフェイズにあると思う」。
ふるさと納税推進担当の澤さんが抜けることによる穴は大きいが、澤さんは「人は育てたつもり。魂も引き継いでくれている感じがする。人が総取っ替えにならなければ大丈夫」と心配していない。
退職してすぐ来年4月中に三条市で法人登記する。「三条ですごく濃い、濃すぎるというか、いろろんな方と出会うことができた。せっかく縁のある土地になったので、三条を拠点にすることにした」。
具体的なことはこれから。クライアントは自治体、民間を問わず営業やマーケティング支援のコンサルを行う考えだ。もちろんふるさと納税関連を含め依頼があれば三条市からの仕事も引き受ける。
「日本のためにと言うと大きなくくりになるが、地方が変わらないと日本は変わらない。三条でご縁をいただいたので、まずはここに拠点を置いてやれるとこからやっていきたい」と話している。
CMOとしての澤さんの生みの親、滝沢亮市長は澤さんの退職の意向に転職なら引き止めようと思ったが、起業してこれからも三条市とかかわると聞き、「快く次のキャリア、背中を後押しすることした」。ふるさと納税の驚異的な実績の背景には、相当な苦労や地道な積み重ねがあったと理解する。
「その苦労を出さなかったのはすごいと思う。決して彼が魔法を使ったとか、打ち出の小槌を持っていたわけじゃなく、本当に地道なやるべきことをひとつずつやってきたのがあの数字だといことをぜひ皆さんにもわかってもらえるとうれしい」と求めた。
組織改革については「本人も道半ばというところはあるかもしれないが、そこも含めて半年やってきて、本人なりにメンバーにエッセンスを伝えられてると感じている」と感謝している。