新潟県弥彦村の弥彦山ロープウェイ頂上レストラン前の下の斜面に根を張っていた樹齢200年以上と推定される村指定天然記念物「ヤヒコザクラ(弥彦桜)」が2022年12月の積雪で倒れた。村は4月30日、現地へ出向いて先に植栽された二代目ヤヒコザクラが同じものかを現地鑑定し、被害状況や樹勢を確認し、保存育成方法を打ち合わせた。
ヤヒコザクラは、花は中輪単弁で色は白く、基部に紅をさす。オオヤマザクラとカスミザクラの交雑種と思われる。弥彦山(634m)の最も高所にあるサクラの大木でもあることから、1979年(昭和54)4月10日に村の天然記念物に指定された。
しかし老化が進み、その保護と万が一に備えて種の保存を図ろうと、弥彦山岳会と弥彦山を愛する会が二代目の育成に取り組み、11年に親木の下に植樹した。
それが親木と同じ形質をもつかどうかをこの日、確認した。同じものであることはわかっていたが、あらためて上越教育大学大学院の五百川裕(いおかわ ゆう)教授から鑑定してもらった。
二代目ヤヒコザクラの植樹を行った当時を知る弥彦山岳会の小林頼雄会長、小野塚正史教育長も立ち会った。五百川教授は、すでに大きく育った二代目の葉の形質などを観察して同じものであることを確認した。
弥彦山登山道9合目付近の急斜面にある。22年の積雪による倒木は、幹が折れたわけではなく、根から引き抜いたように倒れた「根返り」という状態。そのまま放置されてひと夏を越したが、枯れたわけでもなく、新たに伸びたような枝もあった。
五百川教授は「この弥彦山頂でオオヤマザクラとカスミザクラの交雑種ができるのは、生物学的にも意味のあること」とする一方、ヤヒコザクラとして価値づけれた経緯についても話した。
「天然記念物としては、とにかくこの個体が大事なので、これが枯れたときに、その子どもという意味ではそれ(二代目)は価値があるが、株そのものが価値があると考えると、これをこのまま生かし続けるのがいちばん」。
さらに「昔から弥彦山の桜ということで“弥彦桜”と、弥彦神社のかたが昔から呼びならわしてきた。それが価値づけられた大きな要因のようなので、ここに生えているこの個体が長い年月、ここで生育してシンボルになったということなので、これを生かしておきたい」と親木を現状のまま存続させることを期待した。
小野塚教育長は「五百川教授の言葉を尊重して、初代のヤヒコザクラの存続を前向きに検討したい。ただ、非常に急傾斜で土砂崩れの危険地帯なので、安全を第一に考えながら、できれば保存をしていきたい」と話した。
また、ヤヒコザクラは三好学博士が1920年(大正9)に命名したとして、天然記念物指定の根拠のひとつにもされているようだが、実はそれとは別物であることがわかっている。存続とあわせてあらためて天然記念物となった由来を整理する取り組みも期待される。