国内外に取材する自然科学絵本の第一人者、長岡市出身で在住の絵本作家、松岡達英さん(80)が長岡市に寄贈した絵本原画の作品展「長岡の絵本作家 松岡達英展」が21日から11月24日まで長岡市栃尾美術館で開かれている。
松岡さん子どものころから自然が大好きで、長岡駅そばの互尊社の杜や栖吉川(すよしがわ)、東山の不動滝や森立峠など長岡市内で自然観察や採集に明け暮れた。図書館で出会った世界の冒険記や昆虫図鑑に心をときめかす少年時代を過ごした。
絵を描くのが得意で、19歳でグラフィックデザイナーを目指して上京。広告デザイナーとして活動したのち、1969年(昭和44)出版の『知識絵本』(北隆館)で絵本作家デビューした。
以来、国内から世界中を旅しながら自然を取材し、多くの絵本を発表し続けている。厚生省児童福祉文化賞、絵本にっぽん賞、日本科学読物賞など数多くの賞を受け、海外でも多くの絵本が翻訳、出版されている。
昨年、絵本原画など約450点を長岡市に寄贈した。今回はそのなかから絵本23冊とオリジナル作品を含む約100点を選んで公開。あわせて長岡市立科学博物館が所蔵する松岡さんが採集した世界の昆虫標本20箱も展示している。
ナマケモノやペンギンを木で立体表現した作品もあり、作品に描かれた生き物を拡大したパネルを飾ったり、展示会場に著書を置いて自由に読んでもらったりと、松岡さんの世界に入り込める空間だ。
代表作のひとつ、2000年発行の『ぴょーん』(ポプラ社)をはじめ、15枚の原画を横に並べるとつながったひとつの作品になる『地面の下のいきもの』( 福音館書店)、アマガエルを自然遊び旅行会社の社員に見立てた『あまがえるりょこうしゃ』( 福音館書店)などの原画が並んでいる。
自然を愛するだけにどれも精緻な筆致で生き物の息づかいまで感じさせるような描写、多様な表現は圧巻。昆虫標本はチョウ、トンボ、カブトムシ、コガネムシなどが美しく納まっており、見たこともないほど大きな昆虫のサカダチコノハナナフシやヨナグニサンも驚かされる。
初日21日はオープニングセレモニーでテープカット、作品解説、サイン会も行われた。
松岡さんは「よくこの細かいのをやってきたなと思う。それだけ材料があったということ」と振り返り、「1回、東京に出てきて、ネタ不足になったんで50歳ぐらいで戻ってきて。いろんな知識がついた上で自然を見てみると、本当に長岡の周辺の自然は豊富」で、創作意欲を駆り立てられた。
代表作のひとつ、2000年発行の『ぴょーん』(ポプラ社)は、絵本シリーズ「はじめてのぼうけん」最初の作品。ページをめくると中央の生き物が飛び上がる姿を描いたもので、これまで140万部売れた。
「赤ちゃんがページをめくった瞬間に驚きが出るような工夫を考えていた。飛行機の中でずっと考えていて、エアポケットに落っこった瞬間にアイデアが降りてきた」と松岡さん。「これがいまだに我が家の生活の基盤になっている。長いことやってるとひとつぐらいいいことがある」と笑う。
「どうしたら売れるかと考えてもできるもんじゃなくて偶然。一生懸命、頑張ってるから神さまが見ててくれて、ひとつぐらい当たりをつくってあげようかということかもしれない」。
作品を鑑賞する人には「植物とか昆虫といった自然の世界の楽しさや不思議さを自分のものにして、ひとりでも楽しめるようになってほしい。道を歩いてるだけでも見たことない植物、名前が知っているとか、この実は食べられるとか、それだけでも散歩が楽しくなる。自然界にはただで楽しめるものがたくさんある」と言い、「自然と友だちになってほしい」と願っていた。
10月26日(土)にも午後3時半からサイン会を開く。観覧料は一般500円、高校生・大学生250円、中学生以下無料。問い合わせは長岡市栃尾美術館(0258-53-6300)。