フリーランスのグラフィックデザイナー栗山薫さん(46)=新潟県三条市は=は、「2024日本パッケージングコンテスト」に「irogami(いろがみ) ひとひらのおろし金」で応募し、最高賞のジャパンスター賞13点のうちのひとつ、日本パッケージデザイン協会賞を受賞した。受賞者は大企業が名を連ね、デザイナー個人の受賞は栗山さんだけという快挙だ。
日本パッケージングコンテストは、公益社団法人日本包装技術協会が年1回、開催し、ことしで第46回になった歴史あるパッケージデザインのコンテスト。デザインはもちろん、材料、設計、技術、適正包装、環境対応などあらゆる機能に照らして日本の包装分野の最高峰が選ばれている。
ことしは392作品の応募があり、ジャパンスター賞13点をはじめ、包装技術賞33点、包装部門賞17点が決まった。8月28日に都内で表彰式が行われ、栗山さんも出席した。
栗山さんの受賞作品は、おろし金の専門メーカー株式会社ツボエ(笠原伸司社長・新潟県燕市幸町)の3つ目のブランド「irogami」のパッケージ。「irogami」は、1枚の紙をめくったような形のおろし金は、角のめくれた部分が手にぴったりフィットし、自分の手のひらで直接、食べ物をすりおろしているような感覚で食材をおろすことができる。「第29回ニイガタIDSデザインコンペティション2021」で準大賞受賞など数々の賞を受けている。
栗山さんは2022年に笠原伸司社長(52)から「irogami」のパッケージのリニューアルを依頼された。20年の発売から透明なプラスチックを使って全体が見える、いわゆるブリスター包装だった。しかし海外展開を進めるなかで、環境保全のためプラスチックを使っているとバイヤーから扱えないと指摘された。
そのため紙だけで作る必要があった。鮮やかなメタリックカラーのおろし金を、落ち着いたアイスグレー色のざらついた厚紙で包むことでトーンを抑え、ほかの2つのブランドとの統一感に配慮した。
ギフト需要にデザインを特化した。上部はしなやかな曲面を生む折り込みを入れ、製品と共通したイメージにした。ふたをとめるシールもプラスチックが使えず、強粘着を施した紙製を使った。
フックかけの穴も必要だった。製品は着色のために半円形の穴がある。その形状をフックかけの穴と、製品の色を確認できるパッケージ正面の穴にも使った。10色展開だが確認窓の採用でパッケージを1種類にでき、コストカットにつながった。
結果はすぐに出た。売り上げはそれ以前の数倍に。新潟伊勢丹の「NIIGATA 越品」の売り場では、実に7倍にも売り上げがはね上がった。
栗山さんから初めて試作品を見せられた笠原社長は、商品の一部しか見えないパッケージに、あぜんとした。「予想をはるかに超えるものが目の前にあって、絶句だった」と驚きを思い出す。しかし先入観を振り払って見れば見るほど「いつ見ても美しい。商品だけが光らず、パッケージと一緒に光っている」と絶賛する。
すっかり栗山さんのファンになっている。今回の受賞に「栗山さんが認められてよかった。会社にとっても本当にありがたい」と感謝する。新たに栗山さんからパッケージをデザインしてもらった新商品もまもなくリリースされる。
栗山さんは県立加茂高校で美術に所属し、俳優の樋口可南子さんの後輩ということになる。東京デザイナー学院グラフィックデザイン科で学んだあと、すぐにふるさとにUターンして燕市内のプラスチックメーカーにグラフィックデザイナーとして就職した。
その後は県内の広告代理店やデザイン会社を転々とし、2019年に個人事業主として「クリヤマカオルデザイン」の屋号で独立した。ツボエのデザインは独立前のデザイン会社から手がけている。
これまでコンテストに応募することはほとんどなかったが、2023年に「ツボエのSHIRO」のシリーズで日本パッケージデザイン大賞に入選している。今回はそれに継いでの快挙。表彰式の席上で公益社団法人日本パッケージデザイン協会の役員に推薦され、同協会会員になった。新潟県内の会員は、栗山さんのほかには数人しかいない。
栗山さんは受賞の知らせが届き「うれしくて休日だったのにすぐに笠原社長に連絡した」。ジャパンスター賞には経済大臣賞の日本紙パルプ商事をはじめ、ライオン、大日本印刷、ソニー、キリンなど誰もが知る大企業が名を連ね、「わたしなんか受賞してもいいのかと思った」と恐縮する。
「自分が携わる企業の商品がわたしの受賞で付加価値が上がり、喜んでもらえることが、きれいごとじゃなくうれしい。そしてわたしも向上していければ」と役に立てることが何よりうれしい。「ごみを減らして地球環境に優しいデザインを心がけていきたい」と話している。