火焔(かえん)型土器が数多く発見されている信濃川流域の新潟県内6市町が加入する信濃川火焔街道連携協議会(会長・滝沢亮三条市長)は2日、三条市で令和7年度総会(縄文サミット)を開いた。ことしは協議会の「『なんだ、コレは!』信濃川流域の火焔型土器と雪国の文化」が条件付き認定地域の再審査が行われることから、認定継続に必要な取り組みや見通しについての話もあった。
信濃川火焔街道連携協議会は、火焔型土器に代表される「縄文」をキーワードに、信濃川流域の市町村が交流・連携を図り、地域振興や広域観光の推進を目的に4市町村で2002年に発足。今は新潟市、長岡市、三条市、十日町市、魚沼市、津南町の5市1町で構成。会長は2年ごとの持ち回りが慣例で昨年度、今年度と滝沢市長が会長に就いている。
総会には構成市町の首長、首長代理が出席。冒頭のあいさつで滝沢市長は、信濃川火焔街道連携協議会の日本遺産認定ストーリー「『なんだ、コレは!』信濃川流域の火焔型土器と雪国の文化」は2016年に日本遺産に認定されて以来、各自治体の活動や広域的連携でさまざまな事業イベントを開催してきたが、広域観光に向けた具体的な取り組みや観光人口の伸び悩みなどの課題も抱えていると話した。
この課題を解消しようと昨年度から観光戦略の策定や観光ツアーの具体化に向けた調査研究などの取り組みを強化し、その結果を文化庁に報告してきた。「日本遺産の取り組みは、官民の連携によって文化観光経済の好循環を目指すものであり、それはすなわち、信濃川火焔街道でつながるわたしどもの地域全体の持続的な発展につながる。今年度も加盟自治体が一致団結して協力し、日本遺産の取り組みをこれまで以上に前に進めていきたい」と述べた。
議事では令和7年度事業計画と予算(収支とも834万5123円)を決めたあと、感謝状の贈呈。先に信濃川火焔街道連携協議会の活動を通じた地域活性化に役立ててほしいと昨年度分10万円、今年度分90万円を寄付した株式会社高儀(高橋竜也代表取締役社長・新潟県三条市塚野目)に感謝状を贈呈し、高儀5代目で元三条市長の高橋一夫さん(87)に滝沢市長から感謝状を手渡した。
最後に日本遺産地域プロデューサーの新潟市歴史博物館・坂井秀弥館長が「日本遺産と文化観光、そして地域づくり」をテーマに講話を行った。文化財保護、日本遺産誕生と文化財の課題、文化財保護法改正、文化観光と文化財・博物館の課題と話を進めた。
坂井館長は観光活用に意義はあるが、文化財本来の価値を損なわない活用が必要とし、「先人の豊かな営みを伝えるのが文化財であって、だから私たちは先人に共感して文化財を大切に慈しむ。大事なことは現代が歴史の頂点にあるのではなく、この先に人の営みもつながっていく将来がある。それにつなげていくという視点も生まれてくると思う」と述べた。
そのためには、文化財の所有者、住民、地域、本来の意味の継承者で、それを専門家が学術的に支援、サポートし、行政が制度的財政的支援する三位一体の取り組みが重要。「この日本遺産の取り組みは10年ほどだが、これまでの長い文化財の課題を乗り越えて多くの人に文化財の価値を理解してもらい、わたしたちの地域社会を豊かに、それが国を豊かにする」と理解を求めた。
十日町市の関口芳史市長は、「『なんだ、コレは!』信濃川流域の火焔型土器と雪国の文化」の日本遺産認定の継続のためにどういった取り組みが必要かと坂井館長に質問した。
「『なんだ、コレは!』信濃川流域の火焔型土器と雪国の文化」は2016年度に正式な日本遺産の認定地域に認定された。しかし21年度に文化庁が初期認定地域を対象に総括評価を実施。評価の結果、一部の地域について「今後改善が必要」と判断されて「条件付き認定地域」に変更された。
いわばイエローカード的な位置付けで、「『なんだ、コレは!』信濃川流域の火焔型土器と雪国の文化」もそのひとつとして条件付き認定地域となった。
条件付き認定地域は、文化庁の指導や助言を受けて地域活性化の見直しや情報発信の強化など課題の改善が求められ、これにより認定の継続や更新が可能になる。
条件付き認定地域になると原則として3年後に再審査が行われ、「『なんだ、コレは!』信濃川流域の火焔型土器と雪国の文化」は今年度が再審査に当たる。課題が解消されない場合は認定の取り消しや認定候補地域への移行などに措置をとられる可能性がある。
ことし2月には太宰府天満宮など福岡県と佐賀県で構成する鵜「古代日本の『西の都』」が初めて日本遺産の認定を取り消されている。
十日町市は2020年に十日町市博物館を新築オープンした。県内唯一の国宝に指定されている火焔型土器がメインコンテンツ。十日町市にとって火焔型土器はアイデンティティーの核、地域資源の象徴、観光・文化振興の柱となっているだけに危機感が強い。
文化庁は日本遺産の全体の底上げ、ブランドの維持、強化を図るため、2020年に認定件数を104件に制限する方針を示し、入れ替え戦のような様相を呈している。
関口市長は「ことしは入れ替え戦に参入しなければならない状況になっている」とし、太宰府天満宮の取り消しを例に「われわれも非常に危機感を覚えている」と心配した。日本遺産地域プロデューサーでもある坂井館長に、この状況について「向き合い方は協議会としてどうあるべきか教授いただきたい」と求めた。
坂井館長は、観光も文化財もそれぞれの立場で一生懸命、取り組んできたが、「自治体ごとの横のつながり、それぞれの中の分野が違っているところでつながる。言うはやすしだが、そこをいろいろ工夫していただき、ばらばらのようになってるなと見えないようにするのが肝要かなと思う」。
さらに関口市長が「今回の入れ替え戦は頑張って勝ち抜けるということでいいか」と確認すると坂井館長は「勝ち抜けると私は思っているし、その方向で頑張っていただければと思う」と答えた。
加えて時代の変化に対応して、女性へのアピールを増やしたり、若い人に向けてグッズを展開したりという取り組みも提案。「すべての人が学術的な説明を求めてはいないと思う。それでその文化財にふれる人が増えていけば、そこから新たな展開が生まれ、学術的なおもしろさに目覚める人もいる」と述べた。