新潟県三条市の中心市街地に10日、空き家を活用した地域と学生の新たな交流拠点「ろくのわ」がオープンした。三条市中心市街地空き家改修事業等補助金を活用した3件目の施設で、世代や分野を超えた交流を生み出す場となることを目指している。
三条鍛冶道場向かいの西裏館2にある空き家になって1年余り、築約50年の木造総2階建てで延べ床面積約40坪。一般社団法人燕三条空き家活用プロジェクト(斉藤巧代表理事・三条市)が改修を手がけた。
1階は「まちにひらかれたフリースペース」で、学生と地域の人が気軽に立ち寄れる交流スペースだ。空き家から出た古道具を活用し、私設図書館として利用できる学生がDIYした本棚を設置している。
今後はワークショップやイベントを開催予定で、さっそく7月12日午後1時から4時まで初イベント「ろくのわひらく日 vol.1 ボードゲームとコーヒー」が開かれ、誰でも自由に参加できる。
2階は「学生が暮らすコレクティブハウス」で、学生が実際に暮らすスペース。1階はあまり手を加えていないが、2階は大幅に改修した。3部屋を設け、トイレを新設。地域のイベントや1階の運営にもかかわりながら暮らしのなかで地域とつながる仕組みで、すでに1部屋の入居が決まっている。
三条市立大学の4年生の今井愛樹さん(22)=長野県諏訪市出身=と佐藤飛来さん(21)=三条市出身=が一般社団法人燕三条空き家活用プロジェクトで産学連携実習を行った。そのなかで学生と地域をつなげ、地域を盛り上げたいと、燕三条空き家活用プロジェクトで地域おこし協力隊の平野彩音さん(23)=三重県松坂市出身=の3人で「学生任意団体まちのわ」を立ち上げ、この地域で何ができるか考えながら活動している。
(株)大和土地建物(博田亮輔代表取締役)が三条市空き家・空き地バンクで今回の物件を購入し、燕三条空き家活用プロジェクトに活用相談したのをきっかけに、ことし2月の空き家活用スクールで活用の提案し、参加した学生チームで学生拠点の案が出て、これを実行したのが今回の施設だ。
名前の「ろくのわ」は、学生同士、学生と地域など、さまざまな人と人とのつながりの輪が広がっていくようすを表現する。地域の枠を超えて学生が主体的に地域へ飛び出す姿もイメージ。 「ろく」は漢字の「禄(さいわ)い」で、「幸運」の意味もある。ロゴは幸運の輪が広がる願いも込め、幸運や希望 を象徴する黄色を使った。
10日はオープニングイベントを行った。燕三条空き家活用プロジェクトの斉藤代表理事は「学生が地域の日常に入り込み、住みながら学びかかわる、そんな場になればいい」、「この場所が地域に根付いた拠点として育っていけるよう、引き続き温かい声援と協力を」願った。
西裏館自治会の宮島信昭自治会長は、近くにコミュニティーセンターがあるが、1日開放するわけにはいかず「こういう施設ができたことは大助かり。地域の交流の場としてどんどん活用させていただきたい」と歓迎、感謝した。
物件のオーナー、大和土地建物の博田代表取締役は、この物件にひとめぼれしたと話した。理由は3つ。北三条駅や図書館等複合施設「まちやま」に近く目印になること。「まちやま」に向かって軒がありリビングとつながった人を呼び込みやすい開放的な造りだったこと。そしてきれいに建物を使っていた家族の思いをつなぎたいと思ったこと。
プロジェクトのコンセプトや建物に込められた思いにも共感した。「精いっぱい、この地域の活性化のため、学生が集まる場所にしてほしいし、応援したい」と期待した。
滝沢亮市長は「オープンを機に学生たちがこの場で学び、地域の人たちと交流して三条をより好きになり、より大きく成長してほしい」と願った。
三条市立大の今井さんは「学生が集まる場所をひとつ、ものとして実現できたのは、ぼくらにとっても実習の成果物のになるのでうれしい」、佐藤さんは「ろくのわのコンセプト通りに、この地域と学生がつながっていく環境をつくっていきたい」とオープンを迎えて達成感、充実感を味わっていた。
この空き家は、市内に住む小日向尚代さん(66)の実家。昨年4月まで母が住んでいた。小日向さんは結婚で家を出でてから建った家なので、小日向さんはこの家で暮らしたことはない。
「博田さんと話した時に、わたしからさら地にした方がいいんじゃないかと提案したけど、博田さんがこういうことを考えてると、地域に貢献できるような、学生さんが使えるようなものにしたいと、とても熱心に話してくださった。それじゃ、さら地にしないで、このまま活用していただけるならすべてお任せしますということで、きょうを迎えた」と小日向さんは経緯を話す。
改修前により「こんな素敵な感じになって、また昔のところも残ってるので、とてもうれしい」、「あるものを利用してくださってるので。壁とかは長年、使ってたんで汚かったんけど、学生さんたちから直していただいたとかで、きれいになってびっくりしている」。
空き家に新たな息吹が吹き込まれた。「このあたり寂しくなった。皆さんが本当に集まれるような、学生さんがよく歩いているような、子どもさんたちも寄ってくれるような、そんな所になってもらえたらわたしもうれしいし、亡くなった父も喜んでくれると思う」と喜んでいた。