新潟県三条市で収穫されたナシが宇宙へ。10月30日にJAXA(宇宙航空研究開発機構)がH3ロケットでISS(国際宇宙ステーション)の宇宙飛行士に届けた生鮮食品のひとつに三条市の果樹生産者が育てたナシが選ばれた。

生鮮食品は、H3ロケットで打ち上げられた新型補給機「HTV-X」に搭載して届けた。2020年に役割を終えた「こうのとり」の後継機で、ISSの宇宙飛行士の生活物資を届ける任務が与えられた。
搭載された生鮮食品はリンゴ「ふじ」、トマト「ドキア」、和ナシ「王秋(おうしゅう)」と「新興(しんこう)」、温州ミカン「日南1号(にちなんいちごう)」。このうちナシ「新興」が三条市産だ。
提供したのは、ことし5月に法人化されたPear Japan(ペア・ジャパン)株式会社(三条市井戸場)。三条市の果樹産地、大島地区にある珍しいナシ専門の農園を経営する。前身は「土田農園」。5kgケースで2ケース、1個400〜500gの中玉サイズの「新興」20個ほどを生鮮食品の調達から搭載準備を担当した公益財団法人流通経済研究所を通じてJAXAへ出荷した。
生鮮食品の選定はには、常温で4週間以上の保存が可能で、衛生的で安全性に優れることなどがある。新興は10〜15度ていで2カ月以上の保存にも耐えることができ、要件をクリアして選定された。
以前から流通経済研究所と接点があり、生鮮食品を宇宙へ持っていく計画があるという話も耳にしていた。今回は保存試験や書類、契約面の調整を経て、搭載が実現した。
Pear Japanの代表は、土田広樹さん(49)。かつて土田農園は、コメ、モモ、ブドウを含む複合経営だったが、親の代から和洋ナシ一本に特化した。土田さんの代になって海外展開を始めた、米国、香港、タイ、台湾、シンガポールを中心に営業、出荷し、ヨーロッパにも輸出実績がある。コロナ禍後に海外営業を強化して年々、輸出を拡大している。
米国向け果実輸出は登録、基準適合が厳格で、日本でクリアしているのは土田農園と鳥取県のJAだけと言う。コメに比べて果実の輸出体制は遅れており、土田さんは誰もやれない高難度市場、さらに富裕層への販路拡大に注力する。
世界に届けているナシが、ついに宇宙に到達した。今回の実績で発行される搭載証明書も活用し、「宇宙に耐える品質」で海外市場へのブランド価値を向上させる考えだ。
「自分のナシが宇宙に行くとなってから、やっぱりJAXAの取り組みを調べるようになった」と土田さん。選定されたことで、「地球規模で貢献できたというか、宇宙開発の一端を担えてありがたいというのと、生産者冥利(みょうり)に尽きるかな」とにっこり。
「宇宙空間に持っていっても品質が保たれるというのは、ひとつの売りになるのかなと。面倒をしたので、海外での営業に生かしていきたい」。年内に新社屋も完成し、宇宙出荷を商機ととらえ、海外展開の弾みに生かす。