東京でもバンドでアルバムをリリースしたことがある三条市のシンガー、中條有紀さん(34)=西裏館1=が、このほどソロとして初のミニアルバム「sun pillar(サン・ピラー)」(1,680円)を全国発売した。ZEPPET STOREの五味誠さんがプロデュースしたことでも話題で、中條さんにとって「自分のできることを初めて感じた」アルバムとなった。
ライブ演奏は夜、三条市内の飲食店で行うことが多い。ピアノやキーボードに向かって弾き語り。自分に語りかけるようにゆったりしたナンバーを歌う。透き通るように白い肌から受ける印象そのままに透明感のある歌声が空気を澄み渡らせ、天上へ駆け上がるようにのびやかに響く。
コード進行に奇をてらったところはなく、よどみなく流れていく。離れた音へ飛ぶことが多く、歌うのが難しいメロディーラインだが、中條さんの歌唱力と滑らかな歌い回しが難しさを感じさせない。シンプルで音数が少なく、音のない余白も中條さんの魅力のひとつだ。
ライブではアコースティックな印象が強いが、アルバムでは一変する。冒頭の代表曲「dolls」は、オルゴールのねじを巻く音とオルゴールの音色、風音のようなサウンドエフェクトで幕開きする。それ以降の曲でも、中條さんの演奏にほとんど休みなく電子音が重なる。ライブ演奏がリアルな中條さんなら、アルバムはさながら拡張現実。中條さんの感性や表現力を電子的に拡張し、新たな世界観を表現している。
中條さんは三条市の出身。子どものころからピアノを習った。歌うのが好きで、知らず知らずのうちに作詞作曲もしていた。「ほかにできることがなかったんですよ」、「音楽だけが友だち?。それに近いような暗い子でした」と中條さんは言う。
大学進学で上京し、ひょんなことで知り合った友だちとライブハウスへ行くようになり、バンド活動も始めた。X-Japanのギタリストだったhideを紹介するテレビ番組を見た。hideは子どものときに太っていていじめられてコンプレックスの塊だったが、音楽に出会ってロックスターになりたい思ったと話していた。中條さんは自分と重ねた。「それを聞いて、わたしも変わりたい、変われるんじゃないかと思った」。
hideが見いだしたバンド、ZEPPET STOREが好きになった。「こんなすてきな曲をわたしも書きたいと思うようになった」が、それから間もなく心因性の発声障害を患い、話すことさえ難しくなった。「やっぱり自分は夢をかなえられないんだなって夢をあきらめました」。
大学を卒業すると都内で派遣社員として働いた。たまたま知り合いのつてで楽曲提供を始めるようになった。一緒に仕事をしたエンジニアがZEPPET STOREとつながりがあり、ZEPPET STOREのギター、五味誠さんのライブを見に行って五味さんとあいさつした。
それもあってか、また歌ってみようと思った。なぜか五味さんに自分の歌を評価してもらいたいと思った。「だめならだめって厳しく言ってくれるんじゃないか」と自分のデモテープを渡した。その日のうちに五味さんから連絡があり、新しいバンド、sphereのボーカルに誘われた。「昔からあこがれてたあの人に声をかけもらって。わたしなんかでいいんでしょうか」と感激した。
ところが、いざライブをしようとすると対人恐怖症でステージに立てなくなり、無理をして救急車に運ばれたことも。やめたくなかった。「せっかく自分がここまでつかんだものを手放したくなかった」。しかし症状は改善せず、sphereのアルバム2枚に参加した後、脱退し、三条へ戻り、三条市立図書館に勤めた。30歳だった。31歳で結婚、今は一児の母だ。