もうひとりは総務省から燕市企画財政部の部長に就いた岡本泰輔君(29)だ。ことしになって頑張る地方応援プログラムによる出向だったと知った。このプログラムは安倍首相が前回、首相に就いたときにスタートした制度で当時、関心をもったが、地方交付税の支援措置くらいかと思っていた。「頑張る地方を応援できた?」と聞くと、岡本君は「いえいえ、逆にこっちがいい勉強をさせてもらいました」。
岡山県岡山市の出身で、ラ・サール高校、東大卒業の官僚だ。三流大学中退の身としては、その肩書きだけで卑屈になってしまう。職場のデスクでの岡本君は口数が少なかった。さては、われわれ下々の人間を相手にするだけ時間の無駄とでも思っているのだろうかなどと想像してみたりもしたが、それこそ、げすの勘繰り。あれは、ぼろを出さないための“たが”だったと確信している。
宴席での岡本君は実に饒舌なうえになかなかな弾けっぷり。気を許してしゃべり出すと止まらなくなるから、とにかくできる限り話さないということで自制していたとしか思えない。なかでも岡本君の素顔が見えたのは、昨年春の燕市・戸隠神社の春季例大祭だった。
岡本君は木場小路万灯組の若連中に参加した。木場小路万灯組の若連中でもある小林由明市議が岡本君を誘った。祭りが近づくと毎晩のようにお玉さんの踊りのけいこと称して酒のけいこも続く。市役所では“部長”だが、若連中はだれも岡本君を特別扱いはしない。
迎えた祭りの本番。万灯組の若連中が町内の家々を門付けして回る。岡本君はどこにいるのかわからないほど、すっかり溶け込み、心の底から楽しんでいた。そんなようすに“燕もん”としてはちょっと誇らしくもあった。若連中にとっても人気者で、岡本君が東京へ戻る前に送別会を開いてくれ、ことしの祭りにも参加を求めた。都合さえつけばきっと参加してくれるだろう。